枯木に灯る花

【作品形式】朗読・1人読み
【男性:女性:不問】0:0:1
【登場人物】読み手
【文字数】753字
【目安時間】約5分


休日の午後
あなたと二人で
銀杏並木を歩いていた

この前一緒にここを歩いた時には
太陽の光に照らされた銀杏(いちょう)が
黄金色に輝いていたね

そこまで寒くもなく
風景を楽しみながら
ゆっくり歩くのにちょうどいい

嬉しそうに微笑みながら
自然を感じているあなた

あなたのその様子を見て
私は温かい気持ちになる

……この前と比べて今日は随分と寒い
急に気温が低くなって
調子を崩す人が周りに少しずつ出てきている

『風邪引いちゃうんじゃないかな』
と心配して外に出るのをためらったけれど
声からあなたが期待して心を躍らせているのがわかった

凛とした空気の中
黄色い葉を落とした銀杏並木を
あなたは嬉しそうに歩いていく

そのままどこかに行ってしまうのではなく
少し先に進んでは振り返り
私の様子を気に掛けてくれている

あなたの変わらない
さり気ない優しさに
また私は温かい気持ちに包まれた

どんな季節・時でも
どんな環境・場所であっても
どんな状況であったとしても

この温かな気持ちを
私にもたらしてくれるあなたは……
私にとって大切な存在なんだよ

私は……あなたにとってどんな存在なのだろうか
私に何が返せるのだろう
私に何か返せるのだろうか

私は……あなたの力になりたい
ただ……ただあなたのそばにいさせてほしい
私のこの命が尽きるその時まで……

そんなことを思い巡らしていたら
ふと気が付くと
私の左横をあなたが歩いていた

私が視線を向けると
あなたはそれに気付いて
微笑みながら視線を返し
私のコートのポケットに手を滑り込ませてきた

ポケットにやってきたあなたの手を
大切にしっかりと握り
優しく迎えた

私の心音は穏やかに鼓動し
あなたも嬉しそうな表情を湛(たた)えている

冬の訪れを感じる寒空の下で
静かに熱い想いを心に灯しながら
互いにあたたかさを分かち合える喜びに感謝し
二人でまたゆっくりと時を重ねていく


冬来たり
寒空の下
こだまする
枯木に咲いた
笑顔がふたつ

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