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「夜ノ森」(第二十回髙瀬賞佳作)

駅名を綴る柳美里のツイートに衝かれるように北へ向かった

土浦のホームに啜る あたたかいうどん できるだけ声をひそめて

港をのぞむプレハブ小屋にかけられた孫請け曾孫請けの家系図

復旧をまたず自粛を決めていた廃炉資料館には入れずに

路地裏の林道をあるく 饐えた土が帰宅困難区域を分かつ

満開の桜は生徒をむかえずに線量計とともにたたずむ

夜ノ森は闇の入口 名のごとく駅舎のみ場違いにかがやいて

路線図でさえ首都圏のまま 震えながら車窓の先の月を見ていた

おもむろに鳴るブラームス第一番 宿のサウナの水風呂のなか

東京のひとは来ないでくださいと言われて気づくわれも当事者

見はるかす更地に浮かぶ島のよう浪江大平台霊園は

流された人だけでなく帰れない土地を鎮める地にただ祈る

わずかな灯がひとのこころを和ますと告げるタウン誌「なみえのいま」

上りホームに「いつでも夢を」聞くたびに昭和のエネルギー政策を思(も)う

東京はすでに葉桜 出なければ季節を感じることはなかった

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