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祝85歳! 現役最高のラテン・ピアニスト。The Sun of Latin Music、エディ・パルミエリ

2021年12月15日に満85歳を迎え、このコロナ禍でも配信を活用、最近はライヴ活動も再開してバリバリに活動するミュージシャンがニューヨークにいます。サルサなどをふくめたアフロ・カリビアン・ミュージックを代表するピアニストであり、バンドマスターである、エディ・パルミエリ(Sr. Eddie Palmieri/1936年生まれ、NY・ブロンクス出身)。わたしは親しみを込めて、エディさんと呼んでいます。

グラミー賞受賞10回。The Sun of Latin Music(ザ・サン・オヴ・ラテン・ミュージック)の異名をもつ彼は、まさにラテン音楽界の輝ける太陽! 今回のnoteは、お誕生日、お祝いスペシャルです。相方はいつもの音楽評論家、藤田正さん。 ※トップ画像は85歳を祝う記念コンサートの告知から

Eddie Palmieri: NPR Music Tiny Desk Concert(NPR Music)ライヴでも演奏されることが多い3曲「Iraida」 「The Persian Scale」 「La Libertad」。1曲目「Iraida」は亡き妻、イライダさんに捧げたピアノ・ソロ。

――われらが敬愛する、エディさんが12月15日に85歳を迎えました! 👏👏

藤田 Feliz cumpleaños, Maestro!!(スペイン語で:マエストロ、お誕生日おめでとうございます!) パルミエリ師のツイッター見てたらさ、「12月18日に、島でお祝いのコンサートをやるから、来てくれ!」と書いてあったんだよ。行きたかったなぁ!

――「島」というのはもちろん、彼のルーツであるプエルトリコですね。ほんと、どこでもドアがあったら!

藤田 この2年にわたるコロナ禍は、ミュージシャンにとっても非常に厳しい状況だったわけだけど、彼は活動を止めなかった。ニューヨークのブルーノートをはじめとするライヴハウスから積極的に配信を行っていました。2021年5月にはリンカーンセンターの Restart Stages にいち早く登場した。「俺はプレイを止めないぞ!」という強い意志なんだろうね。コロナ以前は、80歳を超えて世界ツアーを行っていたんだから、その強靭な演奏意欲たるやアッパレですよ。

――この前、自己のオルケスタを率いて来日したのは、2019年4月でした。2017年、2012年にも来ています。2019年にブルーノート東京で行われた4日間のライヴは、全8公演のうち6回は聴きに行きましたね。

藤田 ぼくら完全にイカレてるよね。笑

――それは誉め言葉でしょ?  どんなライヴでも一期一会だとは思うし、自由度の高いジャズやアフロ・ラテンのライヴは特にそうだとは思うのですが、エディさんのはさらに群を抜いている。どれひとつとして同じ演奏はないから、出掛けないわけにはいきませんよ。 我々はいったいどこへ連れていかれてしまうのか?? 毎回がそんな体験で、私は中毒になってしまいました。

2019年、来日時のエディさん。偉大なるレジェンドなのに、とても気さくなお人柄

藤田 パルミエリ・ミュージックの構成力は強力。彼が弾き始めるや、そこはニューヨークだし、カリブの海すらイメージできる。メンバーたちも、楽しく演奏しながらも、「俺らはどこまで連れていかれるんだろうか?」って思ってるんじゃない?

――ですね~。2日目のセカンド・ステージは特にそんな印象でした! エディさんのオルケスタの魅力は、「足し算の美学」じゃないでしょうか。ピアノ、ベースが骨格を支えながら、ドラムス、ティンバーレス、コンガ、トランペット&トロンボーン……音が何層にも重なり合って、これでもか、というぐらいに盛っていく。そんなに盛って破綻しやしないか?と思わせながら、最後には完全なる調和がある。メンバーが棟梁であるエディさんが弾くピアノの音に耳を澄まし、その目線や指示を出す指先に気を配りながら、己の最大限を繰り出していく。見ていてスリリングでもあり、とっても興奮します。隣ではすぐに踊り出すオジサンもいますしねぇ。

藤田 パルミエリ楽団のリズムの盛り上がりは唯一無二でしょう。根本は作曲にあるんだろうけど、ぼくにはその秘密はわからない。セロニアス・モンクやマイルズ・デイヴィスが到達できなかった、「リズムとは解放のことである」のメッセージをパルミエリ師がクリエイトしたことは歴史的事実だと思うよ。で、念のため聞いておくけど、オジサンってぼくのことか? 

Vámonos pa'l Monte(ヴァモノス・パル・モンテ)

Azucar Pa' Ti [Sugar For You](アスーカル・パ・ティ)

――その演奏は非常に論理的で、理知的であるとも思うんですけど、結局自分たちが演奏をしているのは「ダンス・ミュージック」である、と常に強調するところもスゴイ。

藤田 そこが感動なんだよ~。

キューバの伝統的弦楽器、トレスを奏でるのはエディさんのよき相棒、名手ネルソン・ゴンサーレス。ベースのルケス・カーティスは現パルミエリ楽団の中心的人物の一人。エディさんは歴史的に、若い才能を次々に鍛えて、いわゆる「ニューヨーク・ラテン」の土台をなした「大先生」でもあります。

50年目の、革命的プロテスト・アルバム『ハーレム・リヴァー・ドライヴ』

――彼の代表作のひとつで、発表当時、各方面に衝撃を与えたといわれる作品が『Harlem River Drive(ハーレム・リヴァー・ドライヴ)』です。1971年発表なんで、このアルバムも今年で50年になりました。

藤田 ぼくはこのアルバム(バンド名でもある)を聴いたことをきっかけに、現地のニューヨーク・ハーレム地区に出かけ、この名前が付いた高速道路一帯の景色を隅から隅まで写真に収めました。撮影した写真をもとに、今は亡き河村要助が渾身のイラストを描いてくれた。ハード・ラテンとファンク・ミュージックが合体した『ハーレム・リヴァー・ドライヴ』って、日本ではだいぶ経ってから評価されたはずです。

河村要助さん(1944-2019)は伝説のイラストレーターであり、サルサに代表されるニューヨークのラテン音楽を日本に伝えた筆頭の人物

――はぁ? 道路のすべてを撮影するなんて、そんなイカれた人は、日本では藤田さんしかいませんよ。で、この曲にまつわるエピソードをご本人と関係者にインタビューした秀逸なミニ・ドキュメンタリーを見つけたんですけど、ここに登場するバーナード・パーディさんって、アリーサ・フランクリンの音楽を支えたあのドラマーですか?? こんな風に人物がつながっていくなんて、ビックリ!

The Note Episode2|Eddie Palmieri : A Revolution On Harlem River Drive

The Note はRed Bull Music Academyによるドキュメンタリーシリーズ。歌詞にある「125th ストリートからGダブと呼ばれる橋まで間」というのは、エディさんのご両親ら、プエルトリコをはじめとするカリブ海からの移住者が多く住んだエル・バリオ(イースト・ハーレム)沿いを走る通りであることを表す。会話にでてくるマチート、ティト・プエンテはともにラテン音楽の巨匠。また、エディさんが最高のピアニストと称える兄、チャーリー・パルミエリは、1988年に亡くなっている。
※字幕設定で日本語も出ます。興味をもたれた方はぜひ、ご覧ください!

藤田 おっ!森さん、勉強してるね~。最高のバンド・マスター(パルミエリ)が、最高のアフロ・ファンクのノリを求めるとしたら、当時はパーディが最高の一人だったからね。

――いい音楽をつくるのに、肌の色や国籍なんて関係ない!と言い切るのがかっこいいですね~。

藤田 このレッド・ブル社の動画は貴重。しかも短時間でよくまとめられている。動画では、アフロ・カリビアン・ミュージックのカナメである黒人系キューバ音楽とはいかなる感性であるかを、巨匠自ら教えてくれている。そしてその土台が、ニューヨークという「新天地」に移し替えられたとき、時代は変った。時代を変えた御当人がパルミエリさんだったということです。

――今年、観た展覧会で度肝を抜かれたアートディレクターの石岡瑛子さんも「タイムレス、オリジナル、レボリューショナリー」と言ってましたけど、最高に優れた人物はみなさんコレですね。その作品は時を経てもいつまでも変わらない凄みがあるし、他人と異なることを恐れず、革命的である。そして、互いの間に壁をもたないボーダレスを志向する。多くの人にエディさんの曲を聴いてもらいたいです!!

(おまけ)
レッド・ブルのドキュメンタリーに登場する人物たちを中心に、何十年もステージでは演奏されていなかった「ハーレム・リヴァー・ドライヴ(テーマ)」がRed Bull Music Acedemy Festival New York in Harlemで演奏された。また、3曲目に演奏される「Comparsa」ではエディさん視点からステージの様子が撮影されていて、メンバーと師のやり取りが疑似体験できますよ。


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