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池袋暴走事故をペダルレイアウト適正化の流れに繋げてほしかった

2019年の池袋暴走事故は刑事事件、民事事件ともに終結し、「上級国民」と揶揄された被告は禁固刑にて収容された。
この事件は乗用車(どうやら2代目プリウス)を運転していた89歳の老人が東池袋界隈を走行中にブレーキとアクセルを踏み間違えて暴走し、複数の車両や人を撥ね、うち母子二人が死亡したもので、この2人がクローズアップされてかすんでいるが、実はほかにも2歳の幼児を含め8名が巻き込まれてケガをするというとんでもない事故になっている。

このことについて世間では被告の経歴や年齢が注目されすぎてしまい、昨今のゆがんだ世情もあいまって上流階級や高齢者叩きのネタにされたしまった。しかし本来ではあればこの事故がどうして起こったのか、また今後起こさないようにどうすればよかったのか、もっと真摯に議論すべきであった。

判決文を読んだところ、この被告は事故現場に到達する前に交差点を左折しているのだが、左折のために減速しようとしてブレーキを踏むべきところを誤ってアクセルを踏んでしまったらしい。加速状態で交差点を曲がっており、数台の車両を必死で避けている。
彼はブレーキを踏んでいると思い込んでいるので、必死に踏み続けているのだが、実際にはアクセルを踏んでいるために最終的に現場の交差点に突入してしまった。

裁判において、被告は「ブレーキを踏んだが、止まらなかった、つまり車がトラブルを起こしたのが原因」と主張し、車にトラブルがあったのかどうかが争点になっている。判決は車にトラブルがなく、被告がペダルを踏み間違えたことを認定して終わっている。
ペダルを踏み間違えたこと自体に疑問を挟む人はいないと思われるが、しかし踏み間違えた原因について、車好きであれば意見がある人も多いはずだ。
ペダルレイアウトである。
実はかつての車に比べて現在の車にはペダルレイアウトが劣悪な車が多い。
室内を広くするために前輪タイヤの内側に運転席を食い込ませるような設計になっている車が多い。その結果、アクセルやブレーキペダルがタイヤに追いやられて車体中央に寄って配置されており、右脚を自然に前に出すとアクセルペダルを踏んでしまうようになっている。理想はもちろんブレーキペダルを踏むようになっているのが良い。より安全な方に設計をするのが鉄則である。かつては後輪駆動者が多く室内空間は今ほどは重視されず、またクラッチペダルもあったためにブレーキペダルが車体中央に寄りにくかった。しかし今はブレーキペダルを踏むためには右脚を不自然なまでに左側に出す必要がある車が多い。軽自動車はほとんどそのようになっているし、ファミリーカーの多くも同じである。適正なペダルレイアウト配置になっている車は日本ではマツダの普通車ぐらいである。

私も被告がペダルを踏み間違えた理由にペダルレイアウトの可能性を考えており、この点を議論してほしかった。
しかし裁判で被告が「ブレーキペダルを踏んでいることを目で見て確認した(つまり踏み間違いではないと主張している)」と嘘を言ってしまっており、これにより「踏み間違いの有無」だけが注目されてしまい「なぜ踏み間違えたか」の議論まで踏み込めずに終わってしまった感がある。その点においてこの嘘は実に大きな損失だったと考えている。

この事故により高齢者の運転により厳しい目を向けられるようになったが、ペダルの踏み間違いは高齢者だけではなく若年層でも起こっている。つまりそれは誰にでも起こりうる事象であり、もっといえば運転者の責任というよりも仕組みそのものに問題があるということでもある。現在はペダルの踏み間違いによる事故は運転者に100%の責任があるが、実はメーカーにも責任がある可能性があるのではないか。
そのことに真剣に向き合ってきたメーカーは日本においてはマツダをおいてほかになく(一時期日産も取り組んでいたのだが)、また自動車ジャーナリストと称する雑誌ライター達もほとんど指摘をしてこなかった。むしろYouTuberなどの車マニアのほうが積極的に提言してきた感すらある。

今回の悲惨な事故のことを自動車業界や国がもっと真剣に考えて欲しかったのだが、その様子が見えないことが実に残念である。


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