わだいいわきFC写真_いわきFCパークのコピー

【サッカー】【いわきFC】赤字必至のいわきスタジアム構想

それでもあきらめない市といわきFC


 いわき市が昨年度から進めていたサッカースタジアム整備の事業可能性調査が終了し、6月5日に結果が公表された。同市に本拠地を置く東北社会人サッカーリーグ1部・いわきFCのホームスタジアムが整備されることを想定した調査だが、市内のどこに整備しても赤字になるという結果が出た。そんな施設を整備する意味はあるのか。

 いわきFCは、米国のスポーツブランド「アンダーアーマー」の代理店であるドーム(東京都、安田秀一社長)が同市に進出するのに伴い、2015(平成27)年に設立された。運営会社名はいわきスポーツクラブ(大倉智社長)。現在は東北社会人リーグ1部(5部リーグに相当)で、将来のJリーグ入りを目指している。

 同市上湯長谷のドーム物流センター隣接地に、商業施設複合型クラブハウス「いわきFCパーク」をオープン。「アンダーアーマー」の直営アウトレット店や飲食店などを備え、年間30万人超が訪れる。U―15、U―18など下部組織を設立して選手育成にも取り組んでおり、市やいわき商工会議所などで組織された「スポーツによる人・まちづくり推進協議会」が設立されるなど、応援の輪が地域に広がりつつある。

 このまま順調に昇格していけば、2021(令和4)年にJ3昇格となるが、その際課題となるのがスタジアムだ。J3は収容人数5000人、J2は1万人、J1は1万5000人規模のホームスタジアムが必須条件となっているのだ。

 ドームはチーム立ち上げ当初からサッカー専用スタジアムを整備し、飲食、観光、交通などの産業も発展させ、地域創生につなげる構想を掲げていた。だが、スタジアム整備には100億円規模の金額がかかるので民間企業だけで負担するのは厳しいことに加え、いわき市長選で現職・清水敏男市長が整備の必要性に触れていたこともあり、最終的には市が前面に立って計画を進めるのではないかとみられていた。

 そうした中、スタートしたのがサッカースタジアム整備の事業可能性調査で、コンサルタント会社に委託する形で行われた。市内では平、小名浜、常磐地区などが候補地に浮上し、誘致団体が設立されるなど盛り上がりを見せているが、果たして調査結果はどうだったのか。

 結論から述べると、いずれの地区に整備した場合も年間7000万円以上の赤字が想定されるという結果になった。

 具体的には、海外の最新スタジアム事例を参考に、4つのコンセプトを定め、それらのコンセプトに基づき4地区に絞り込んだ。

 ①主要駅近くに立地し多様なサービスを提供する「街とスタジアムが融合したマチナカスタジアム」(平地区)

 ②周辺の観光施設と連動する「観光資源融合型スタジアム」(小名浜地区)

 ③医療や健康意識向上の拠点となる「スポーツ科学と医療拠点型スタジアム」(内郷地区)

 ④郊外エリアでスポーツ利用とアウトドア娯楽を融合させる「環境共生型(郊外型)ボールパークスタジアム」(常磐地区)

 国内の既存スタジアムの運営方法やアンケート結果、さらにMICE(会議などのビジネス関連イベント)やコンサートのニーズを踏まえつつ、コンセプトに沿った付帯施設(カフェやオフィス、ジムなど)を整備した場合の収益を検証した。

 それによると、既存スタジアムの場合、年間運営費用に約1億7000万円かかるが、年間収入は付帯設備収入、広告費、合宿・フェス使用料などを合わせても約9000万円しかなく、約8000万円の赤字が発生する。

 では、①~④の案はどうかと言うと、付帯施設を追加した分数百万円の収益改善が見込まれるものの(ただし、内郷地区だけはマイナス)、いずれも年間7000万円以上の赤字という結果だった。

 スタジアム整備にかかる初期投資は屋根無し天然芝スタジアムでも約110~120億円かかる。さらに周辺インフラ整備費用(用地取得費含む)として①平地区約50億円、②小名浜地区約18~24億円、③内郷地区約24億円かかることが予想される。④常磐地区は都市公園内への整備となるため検証が困難だった。仮にスタジアム整備をいわきFC、インフラ整備を市が担うとしても、相当な金額になる。

 21世紀の森公園内にあるいわきグリーンフィールドを改修する場合の試算も行われたが、一気に改装する場合は約110億円かかり、リーグが昇格していくのに合わせて段階的に整備する場合は約35~38億円ずつかかるという。初期投資が抑えられるという意味では最も現実的なプランかもしれない。

「欧米型」の実現なるか

 以上の結果を踏まえ、同調査では①スタジアム整備には過大な投資がかかるので慎重な検討が必要、②スタジアム単体で大きな収益を生むのは難しい、③費用を抑えるために整備用地提供、事業協力者を募るなどあらゆる方法を検討すべき――などと指摘し、「『収益性』の高いスタジアムビジネスのモデルを構築していく必要がある」、「ハード・ソフト両面にわたって、市民生活等に影響を及ぼす可能性があることにも留意が必要」、「地域密着型プロスポーツに対する『支援の在り方』について、市民意見も十分に踏まえながら、地域として検討を進めていく必要がある」とまとめた。

 市創生推進課の担当者は次のように語る。

 「欧米ではスポーツ施設を核としたまちづくり『スマート・ベニュー』が広まりつつあり、本市やいわきFCとしてもそうしたスタジアムを目指しているのですが、同調査は国内の既存スタジアムをベースにしているため、厳しい結果となりました。新たなスタイルのスタジアムが本市で成り立つのか、加えて市民の人気が上がりスタジアム整備の機運が高まるのか、今後も検討を続け、見極めていきたいと思います」

 この担当者によると、基本的に整備費用を出資するのはいわきスポーツクラブ(ドーム)というスタンスは変わっていないものの、行政主体でなければ活用できない補助金などもあるため、運営方法に関しては今後も考えていくことになるという。

 福島民友7月14日付では大倉智社長が同調査を受けてコラムを掲載していたが、「既存の運営スタイルに基づいた調査結果は想定範囲内だった。見えてきた課題の解決に向け、行政や地域と一緒に採算が取れるビジネスモデルを考えていきたい」、「議論は、欧米のスタジアム運営などを念頭に『まちづくり』に効果が生み出せるのではないか、というところからスタートした」、「これまで日本になかったスタジアム運営モデルがいわき市で生まれれば、市にとっても日本のスポーツ界全体にとっても素晴らしいことだ」と書いてあった。市とほとんど同じスタンスと言えるだろう。

 圧倒的な熱意と資金力で低評価を覆してきた同クラブだが、公的資金が投じられ整備されたスタジアムが赤字続きとなれば、さすがに市民は納得しないだろう。まちづくりと一体化した「スマート・ベニュー」型スタジアムが完成するまでは相当時間がかかりそうだが、実現できるのか。市といわきFCの次の一手が注目される。

 Jリーグに入れば動員も増え、放映権料も一気に増加する。そういう意味では、基本的なことだが、同クラブが今後どれだけ上のリーグで活躍し、スター選手を生み出せるかが大きなポイントになる。


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