ひじり
【エピローグ】 世界中に未知のウイルスが蔓延し世界は分断された。 この数年で、今まで当たり前だったことがそうではなくなった。 人々はマスクなしに会話もできず、仕事や学校は画面越しでの意思疎通になった。 有効な薬や治療法が見つからないまま、何万、何十万という人々が命を落とした。当たり前にあった「今」が、明日にはもうなくなっているかもしれない。 そんな毎日が圭佑の価値観に変化をもたらした。
【最終章】 「会うのは今日で最後にする」 ゆうから突然そう告げられた圭佑は、すぐには言葉の意味を理解できなかった。 二人で夜の水族館に来ていた。 「クラゲが見たい」 ゆうがそう言い出し、都内から少し車を走らせてここまで来たのだ。 夜の水族館は昼間とは違う顔を見せていた。水槽を泳ぐ魚も昼間とは選手交代といったところか。この水族館のスター選手であるミズクラゲは、美しくライトアップされ、それはそれは幻想的だった。 「え…なんで?」 さっきまで二人でゲラゲラ笑いながら
【第三章】 今日も東京は観測史上最長の真夏日を更新していた。夜になっても熱気の冷めないアスファルトに残り少ない命を託すようにアブラゼミが最後の声を振りしぼる 「ビール?ハイボール?」 気だるく窓の外を眺めていたゆうに圭佑が尋ねる。 「ハイボール。レモンたっぷりで」 「ざんねーん。フロントに聞いたけどレモン用意してないってさ」 ハイボールにはレモンをたっぷり入れるのがゆうの好みであることを知っている圭佑は、事前に電話でレモンを取り寄せようとして断られていた。
【第二章】 ああ、飲みすぎた…。あの社長ほんっとたち悪い。 ブツブツ悪態をつきながら橋田圭佑は終電の終わった駅のロータリーでタクシーが来るのを待っていた。 これで今回の契約が取れなかったら、あの人前での公然わいせつキスはなんだったって話だよな…。 そう思いながら、そのキスの相手となった水無瀬ゆうのことを思い出していた。 水無瀬のことは他社ながら知っていた。すらりと細身で髪と瞳の色が少し薄く、ハーフの血でも入っているのかと思わせる中性的な印象の男性だった。アシストにつ
※これは松下洸平さんの『つよがり』から刺激を受けて書いた妄想二次創作物です。 「足りない覚悟」とは?「キスのあとのため息」はなぜ?そんなことを考えながら書いてみました。楽曲とは一切関係がありません。 【プロローグ】 「僕にはあなたを愛する資格ないのかもしれないな」 彼はそう言って悲しく微笑んだ。 何も言えなかった。私はもう決めたのだ。この恋を終わりにしようと。 「ずるい」と彼は言った。 「一人で決めちゃうんだね」 だよね。逃げ