ホワイトカラーの生産性の問題

日本のホワイトカラーの生産性の問題 (2)

どうやって解決するのか?

ホワイトカラーにおけるコミュニケーションの質を改善する」すれば日本のホワイトカラーの生産性は改善する。  コミュニケーションの質を改善するとは、各コミュニケーションの単位(発話ごと)における5W2Hを常に明確にすることである。  この対策は、単にホワイトカラーの生産性が向上するだけにとどまらず、企業が欲しているイノベーションやアントレプレナーが生まれる土壌ができると考える。  

先にも述べたように、生産性を削ぐなう構造によって生み出された最も強力な毒は「組織で生き残るための仕事」である。 この猛烈な毒は、企業が最も必要とする「儲ける為の仕事」を見事に駆逐してしまった。

幾つかの企業は、この毒に気づき様々な処方で解毒しようとした。 例えば、トヨタが提唱した「見える化」もその一つだ。  ホワイトカラーの生産性が改善しない要因の一つは「見えない」「見せない」であることは間違いない。 何らかの仕組みでホワイトカラーに「仕事を見せる」ように強制し、「儲ける為の仕事」以外を炙り出す方法はある程度の効果があった。 しかし、残念ながら日本のホワイトカラー全体に普及するには至っていない。何故なら、これらの対策はホワイトカラーが組織にしがみついて生き延びようとする本能に真っ向から挑戦しているからだ。 ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒーが著書「なぜ人と組織は変われないのか」で主張しているように、変化を阻む強い力は「自己免疫機能」である。 自己または自我を守ろうとする本能を抑制すれば、ホワイトカラーはありとあらゆる方法をもって粘り強く変化に対抗してくる。 このイタチごっこにはゴールは無い。

もう一つの対策は「定量化」である。 「生産性」を数値で管理する方法だ。 しかし、この方法も全体に普及にする程に至っていない。 ホワイトカラーのコストは計測可能だ。 しかし、「生産性」を算出するために必要な分母となる生産物の定量化が極めて難しい。 何故なら、価値を計る為に必要な「物差し(基準)」を決める時点で、ホワイトカラーの猛烈な抵抗に合うからである。 あーだこーだと議論を重ねているうちに貴重な改善の炎が燃え尽きてしまう状況を目にしてきた。

これらの対策が普及しないのは、いずれも巨大な構造的問題に正面から挑みホワイトカラー全体の免疫機能に直接働きかけるに等しいアプローチのため少数の改善を志すものが疲弊するか、挑戦する勇気すら湧き起こらないためである。 では、何故、ホワイトカラーのコミュニケーションの質を改善することがこれまで為し得なかった生産性の問題を解決できるのか?

まず、この改善には仕掛けが必要である。 近代の情報技術の進化とその普及によってこの仕掛けを実現することが可能になったことがこの解決策を提案するに至った背景でもある。

コミュニケーションの質を改善する仕掛け

現代のホワイトカラーの多くはコミュニケーションの手段として電子メールまたはチャットシステムを主なコミュニケーションの手段として利用している。 コミュニケーションの質を改善する仕掛けは、これらのコミュニケーションツールと組み合わせることで機能する。 以下にその凡その機能をチャットシステムを対象に説明する。

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(1)発話者が聞き手にメッセージを送る
Sender(発話者)がReceiver(聞き手)にチャットを行う。 通常、業務中のコミュニケーションであれば発話者は仕事の依頼や指示を行う者(使役者)であり、聞き手はその依頼または指示を受け作業を行うもの(被使役者)である。 

(2)チャットシステムがメッセージを改善システムに送る
チャットを制御するチャットシステムは、発話者のメッセージを聞き手に伝送すると同時に、そのメッセージをコミュニケーションの質を改善する仕掛け(以降、改善システムと呼ぶ)に伝送する。

(3)改善システムがメッセージの目的を特定する
改善システムは、受け取ったメッセージを解析しメッセージの目的を特定する。 業務中のコミュニケーションの殆どは以下のいずれかの目的に属すると考えられる。  

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(4)改善システムは目的を果す為に必要な要素の有無を分析する
特定された目的に対し、その目的を果たすために必要な要素がメッセージに含まれているか否かを分析する。 必要な要素とは、聞き手(被使役者)が期待される事を果たすために必要な「5W2H」である。  5W2Hは最も上位の分類であり、目的によって更に細かい要素が必要になる。

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(5)改善システムはメッセージに不足している要素を特定する
上記(4)の分析の結果、不足している必要な要素を特定する。 例えば、「指示」が目的であった場合、その仕事を何時までに完了するかを定める「いつまで(when_end)」が欠落している。

(6)分析の結果をビッグデーターに保存する
改善システムの解析能力の向上並びにコミュニエーションの質の変化を確認するために分析結果等のデータをビッグデーターに保存する。

(7)改善システムは不足している要素を補うようにアドバイスする
改善システムは、不足している要素を補うように発話者にアドバイスする為のメッセーを生成する。 例えば、「いつまで」が欠落していた場合、「◯◯さん、先程△△さんに送った指示に『納期』が示されていなかったようですがいかがでしょう。 △△さんは期待どおりに仕事を成し遂げることができますか?  心配なければこのアドバイスは無視してださい。 もし懸念があれば、念の為、再確認されてはいかがでしょうか」

(8)改善システムはアドバイスを発話者に送信する
改善システムは、上記(7)で作成されたアドバイス用メッセージをチャットシステムに送信する。 チャットシステムは受信したアドバイスメッセージを発話者に送信する。 

仕掛けを実現するテクノロジー

電子メールやチャット等のデジタルコミュニケーションツールに加え、上記の仕掛けを実現する為に必要且つ重要はテクノロジーは機械学習と人工知能である。 これらのテクノロジーはこの数年にかけて凄まじく進化した。  また進化と共にコストも下がり多くの手に届く所まで汎用化されてきた。 ホワイトカラーのコミュニケーションの質を改善する仕掛けにおいては、電子メールやチャットで送受信されるメッセージを解析しコミュニケーションの目的を特定、さらにその目的に対して不足している要素の抽出を行う機能には自然言語処理を活用する必要がある。 また、拒絶反応を和らげるフレンドリーなアドバイスは人工知能を活用したチャットボット技術を用いる必要がある。 これらのテクノロジーを用いることでこの仕掛を実現できる可能は極めて高くなった。

仕掛けの効果

この仕掛けを導入することによって次のような効果が得られる。

(1)業務上のコミュニケーションにおける「日本語の曖昧さ」を抑制することで思考の精度が上がる。

(2)リアルタイムに且つ継続的に質の問題を検知しその場で改善を促すアドバイスを送りることで、高品質なコミュニケーションが定着する

(3)ホワイトカラーの群ではなく、個人別且つ各自の質に合わせたアドバスを送ることで拒絶反応の集団化を避ける。

(4)WHYを常に明らかにすることで、仕事の価値を意識して取り組むようになる。

これらの効果が複合的に働くことによって、次の二次効果が得られる。

(A)ホワイトカラーの各自が「仕事の為の仕事」と「儲ける為の仕事」の違いを意識するようになる。

(B)ホワイトカラーの各自が仕事の効率を上げるメリットを実感できるようになる。

この二次効果が出現する段階に達するとホワイトカラーの各自において、生産性を意識し且つ主体的に生産性を高めようとする思考が働き始める。 さらに、改善思考をもったホワイトカラーをより多く生み出すことができる。

なぜ、この仕掛けによってこれらの効果が得られるのか?  それはホワイトカラーの仕事の構造と意識構造に理由がある。

効果の源泉 ー 仕事の構造

ホワイトカラーの仕事は大きく次の二つに分類できる。

      (1)定型化できない仕事
      (2)定型化できる仕事

定型化ができない仕事ととは、「創造する仕事」または「変える仕事」などである。 言い換えると撫ぞる手本が無い仕事だ。例えば、新しい商品やサービスを考え出す仕事や生産性を上げる為に仕事を変える仕事などである。 これらの仕事は、大枠のフレームワークがあってもコンテンツとプロセスは都度大きく異る。 つまり、前回の仕事のやり方が次に取り組む仕事の参考にあまりならない仕事である。

定型化ができる仕事ととは、先の「定型化できる仕事」以外の全てである。
細かいコンテンツの違いやプロセスにおける対象のバリエーションは「定型化できない」理由にはならない。 例えば、毎日、毎週、毎月、毎四半期などの周期があり、実作業を行う担当者が凡そ固定化されており、仕事の手順書が存在するかまたは別の担当者に説明することで比較的早く(数日から1ヶ月ほどで)引き継げる仕事である。

経験値ではあるが、この分類を適応するとホワイトカラーの労働時間の7割は「定型化できる仕事」にあたると考えられる。

この「定型化できる仕事」の基本構造は「5W2Hのブロックチェーン」だ。例えば、新しいサービスの提案書を顧客向けに作成するケースを想定する。

工程1:  部門の責任者が、チームリーダーに提案書を作成する指示をだす。 「君のチームで(Who)、今月末までに(When)、◯◯会社宛てに提案する(Why)新規サービスの提案書を(What)作成してくれ(指示)」  

工程2: チームリーダーは、提案書を作成する作業をしかるべきチームメンバーに割り振る。 「山田さん(Who)、今週末までに(When)、新規サービスに関連する情報を(What)、できるだけ詳しく(How)、集めて下さい(指示)」「高橋さん(Who)、今週末までに(When)、◯◯会社に関連する情報を(What)、できるだけ詳しく(How)、集めてください(指示)」
「山田さん(Who)、必要な情報が揃うまで(When)、提案書の雛形(What)を入手して(指示)、事前に作成できるプレゼン資料があれば(What)作って置いてください(指示)。」 

工程3: 作業を割り振られた各メンバーが各々の仕事を行う。


繰り返される仕事などである。 


防衛本能をかわす

自己免疫機能を組み替える


 



日本のホワイトカラーの生産性が向上しない問題は、個人の知識や技量の問題ではない。 上述のように「生産性を向上させない構造」によって引き起こされている。  しかし、この巨大な構造上の問題を解決するのは容易ではない。 不可能ではなくとも、膨大な時間と労力が必要なことは明らかだ。 問題解決に取り組んでいるうちに世界は更に進歩するだろう。 はたして、 時代の流れから大きく後れを取らず生産性を向上させる方法あるのだろうか。焦って場当たり的な解決策を模索する前に、今一度、低い生産性の原因を見つめ直す必要ある。 

 The Goalという著書に、生産性の問題を抱えた工場が見事に復活を遂げるストーリが描かれている。その中で工場の責任者とキーメンバーが「会社は、お金をもうける為に存在する」という本来の目標に気付き、様々な改善を成し遂げ以前には想像し得なかった高い生産性を実現する。 ノンフィクションではないが、著者エリヤフ・ゴールドラット教授の深い研究と実践によって裏づけられた生産性改善の教科書である。 そして、この教科書はホワイトカラーの生産性を向上させる上でも有用な様々示唆を与えてくれている。

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