#ProjectLootforTAP補足② #LootforEmotionには何ができるか?



○未来世界の人工言語「TAP」とは何か?私の理解

 まず、グレッグイーガンがTAPという人工言語を設定した上で、大変面白い特徴が二つあります。それが「スキャン」と「プレイ」です。まず、TAPは人間が持つありとあらゆる感情、つまり、10の3千乗ほどある、無限ではないにせよ極めて膨大な数の心理的パターンを全て記述し、エンコードする機能を持ちます。「愛するラブラドールレトリバーが夕日を背景にしながら飛びついてきて顔を舐めてくれた時の嬉しさ」などが好例です。TAPは、極めて精緻で具体的で指示性が究極的に高い言語です。TAPをインストールした脳内インプラントを持ち、なおかつその語彙の理解に十分に習熟したユーザーは、手のひらに埋め込まれた専用のTAP信号受信機で受け取ったTAP単語を、スキャンするかプレイするか選べます。スキャンは、我々自然言語話者が言葉を理解するように、TAPの単語を理解するということです。「将来を約束したパートナー候補が突然事故死した時の想像を絶するような悲しみ」を、客観的に眺め、それがどのような色彩を持っているか、他の類似の感情とどう違うか、それを他人がプレイしたときにどのような反応を呼び起こすか、などを勘案することができます。しかしプレイは主観的です。そのTAP単語が記述する感情に、脳内インプラントの機能を使って即座に「なる」ことができるのです。我々自然言語話者が「将来を約束したパートナー候補が突然事故死した時の想像を絶するような悲しみ」という文章を目にしたときに感じる同情、つまりその感情の捨象された追体験とは比較にならないレベルの完璧なトレース。寸分違わずその気持ちになってしまう。「愛するラブラドールレトリバーが夕日を背景にしながら飛びついてきて顔を舐めてくれた時の嬉しさ」を表すTAP単語をプレイすれば、それが指し示す穏やかで優しい嬉しさを完全にトレースする形で体験できるのです。しかし脳内インプラントのセーフティネットがあるので、「将来を約束したパートナー候補が突然事故死した時の想像を絶するような悲しみ」のような自殺を引き起こす危険のある感情をもたらすTAP単語はプレイが禁止されます。以上がTAPの主要な特徴です。お察しの通り、「スキャン」の部分はなんとか既存技術で再現可能であっても、「プレイ」は再現不能です。脳内インプラントである人物の感情を強制的に操作する技術は未だ存在しないからです。


○♯LootforEmotions は、TAPのエンコードとスキャンのみを再現しようとする試み。

 ♯LootforEmotionsには、ある感情を、交換可能な情報単位として取り扱うことを可能にするポテンシャルがあると私は信じます。もちろんそれは、TAPには及ばないでしょう。TAPが取り扱うことができる10の3千乗という膨大な数の、感情の分節化。そこまで精度の高いものを実現することができるわけではないでしょう。しかし、それでも感情の記述とそのままの形での記号化を以下のような方法で達成する、というアイディアには十分な価値があると自負します。♯LootforEmotionsの核は、卓越した比喩です。この計画の先行きいかんによっては、もしかしたらもっと都合のいい適切な感情のメディアを核とすることになるかもしれませんが、現時点では比喩表現テキストデータが感情記述の核です。♯LootforEmotionsに属するNFT Lootの購入者が、そこにどんどん追加情報をサマリーとして付け加えていくことによって、感情記述・エンコードの精度はどんどん増すと考えられます。その記述の増加が十分に増した後、とある♯LootforEmotionsが持つ含意の広がりをまとめて♯Emogramという、情報のやり取りに都合のいい単位にすることで、感情表現のやりとりを高速化・精緻化しようとする試みが♯ProjectLootforTAPです。

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