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『ゴムパッチン』

ステージ4のがん患者の『がんかわいがり』は始終ゴムパッチンを噛みながら後退しているようなものだ。一歩後退すれば、いのちが一月伸びているのかも知れない。しかし、永遠にゴムパッチンを続けるのか。歯をくいしばって、ゴムパッチンの力に逆らって、どこまでもどこまでも後退し続けることなどできない。限界がやってくる。いつか離すのだ。ステージ4を私はそう解釈している。完治はない。
ゴムパッチンを持つのは医師だ。「もうだめだ、意味がない」と思えば医師が手を離すだろう。

私は3クール目の投薬期間の終わる前後に限界が来た。
『ゴムパッチン』を5月中だけでも止めよう。減薬という選択肢もあるが、5月中だけでも止めたい。ひょっとすると5月いっぱい休んだら、ゴムパッチンはその勢いでスタート地点まで飛んで、私の『がんかわいがり』も振り出しに戻るかもしれない。それでもいい。6月からまた始めればいいじゃないか。5月分の医療費も浮くし。どこかへ、湯治にゆきたい。『がんかわいがり』より湯治だ。

私はいま、『発熱。腹下り。鬱鬱不安頭。不眠。頭の中から砂の『ザザザザ音』がする。母親が調子の悪いときは、不思議な言動の相手もしている。同じ話を何回も聞かなければならない。霊能者のようなことを言う。夜中、窓の外に人が立っていた、とか。おそらく、それは夢なのだけれど『夢』と『現実』の境目でふらふらしているときがある。そんなこんなで疲れてしまった。

すべての元凶は『腹下り』だ。
人類が、抗がん剤治療をはじめて何十年経つのだ。それなのに、『抗がん剤治療中の患者用』の腹が下りにくい食事がどこにもない。怠慢だ。日本人の二人に一人が、がんになる時代に即していない。
私はそこに金脈があると思うのだが、どこの食品メーカーも動かない。開発しない。がんなんて知らない、だ。医療関係者もまた、患者が『腹下り』でどれだけ体力と精神(頭)が削られているのか。わかっていない。

ああ、熱が下がってきたようだ。アイスノンのおかげだ。

追記。am9時。3・4日寝込むつもりであったのに。熱が下がって体力も戻っている。昨日はへろへろでくらくらだった。弱気にもなって5月の『がんかわいがり』をまるごとスキップするつもりだったのに、一晩でなぜ治ったのかわからない。これでは『がんかわいがり』をスキップできないではないか。サボタージの名人の私でも迷う。5月にかかる医療費をまるごと『湯治ツーリング』にあてるつもりであったのに。残念だ。

しかし、なぜ、家から一歩も出ていない私が発熱したのだ。
変化した事と言えば、『ビオスリー』だけだ。ビオスリーが『38度3分の侵入者』と闘っていたのだろうか。もしくは、私の腹に棲み着きつつあった悪の侵入者と『ビオスリー』と『葛根湯』がタッグを組んで熱い戦いをしていたのかも知れない。いずれにせよ、私の発熱騒動はあっけなく終わった。
ずううっと『腹下り』なのに意外に元気なのが不思議だ「ほうっておくと死んじゃいますよ」と看護師に言われたのだが、事実上ほうっておくしかない状況だからしかたないのだが。

『腹下り』対策は手を替え品を替え取り組んでいる。一日の経口水分量を1・2ℓとしてみよう。これまでは2ℓ飲んでいた。丁度『ラーケン』の600㎖ボトルが出てきた。なんでも試したほうがいい。

今日のエッセイは前半と後半で相反する内容が書いてある。
それだけ『がんかわいがり』には浮き沈みがあるということでもある。
私は、その都度『ゆれる』ほかないのだ。



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