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『ホンダを着てカワサキで走る』

私には春秋オートバイ服コレクションのミリタリーコートがある。カーキ色と濃紺の二着、同じ型のホンダ製だ。春秋のツーリングには、革ジャンかこのミリタリーコートの2択と決めていた。ぺらぺらの生地に裏地もない。中綿もない。縫製もあまい。スナップボタンも良くとれた。クレームを入れても良いくらいの品質だと思う。

その、ホンダ製のミリタリーコートが私は大好きなのだ。「がんばり」過ぎていない。そんな所が好ましく、私の心はつかまれた。インナーで私なりに、「がんばる」からアウターでは「がんばら」ないでほしい。それが私の安全と防寒を兼ねた、オートバイファッションのスタイルだった。

さすがに、買って一週間も経たないうちからスナップボタンがぽろぽろ落ちたときにはびっくりもした。仕方ないので落ちたスナップボタンは取り替えて、残ったスナップボタンとともに「パワーオブドリーム」と連呼しながら「がんがん」打ち直した。

調べて見ると、2019年12月に購入していた。価格は14000円程だった。丸4年の間「がんばらない」はずの服がずいぶん「がんばった」ことになった。そのカーキ色の方のミリタリーコートのポケットが、今日破れた。
ぺらぺらの「がんばらない」ミリタリーコートを狙って買った私にとって、それは想定内だった。現にポケット内に財布を入れてオートバイで走ったことは一度もなかった。そういう、冷めた関係が私との間に構築されていた。わりきった大人の付き合いとはこういうものだ。

あれからホンダのラインナップには「がんばらない」アウターはない。他のメーカーにもないだろう。クシタニ。カドヤ。マックスフリッツ。も「がんばりすぎ」だ。それが正しいのが悩ましい。たまに検索して「がんばらない」ミリタリーコートを検索してみるのだが、Lサイズは見つからない。破れたポケットは私がテキトーに「がんばらない」で縫うほかないだろう。

今日はポケットが破れたまま、昼過ぎから2時間ほどミリタリーコートを着て走ってきた。ホンダを着てカワサキで走ってきたのだ。カワサキW650の為に仕立てられたような「がんばらない」ミリタリーコートをホンダが作っていたのが面白い。

女性のサイズならまだ新品があるかも知れない。忘れないでほしい。着る前にすべてのスナップボタンを「パワーオブドリーム」と連呼して打ち直すことを。
ああ、今日は日曜日ではないか。シャララ~ラ「がん」シャララ~ラ「がん」シャララ~ラ「がん」シャララ~ラ~。こんなふうに打ち直しても良いかもしれません。



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