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たまに喧嘩するけど仲良しだった利用者さんの話

介護施設で働いている身だけど、毎日いろんな事が起きるのもこういう施設の特徴。
時には人生で重大なイベントに立ち合う事もある。

利用者さんでとても夫婦仲の良い方がいた。
孝雄さんと花子さん(共に仮名)。
いつも一緒に食堂に降りてきて食事に来る。
しかしたまに奥さんの花子さんだけの時も。
旦那さんの孝雄さんは具合が悪いとかではない。
どうしたものかと思ったらどうやら孝雄さんと口喧嘩みたいな状態になったらしく他の利用者さんや介護士さんに愚痴をこぼしたりしてた。
それでも次の日には二人仲良く食事にやってくる。

しかし孝雄さんの調子があまり良くないらしい。部屋食で食堂に降りてこない日も少しずつ多くなってきた。
それでもたまには食堂に降りてきて普通に食事をしてくれた。

先日、仕事のため廊下で作業をしていたら…介護士の一人が孝雄さん達の居室に向かっていた。
そして数秒後。先程居室に向かった介護士がありえない速さで走り階段を慌てて駆け下りて行った。
この動きを見てこのあと救急車でも来るのかと思い、搬送作業の妨げにならぬ様、他の階に移動し作業を続けた。
しかし救急車が来る様子はない。

少し落ち着いたと思われた頃にまた先程の階に移動し残っている作業をしようと。
この施設の責任者とすれ違い挨拶をした。そして責任者の口から『孝雄さん、亡くなったよ…』と静かに告げられた。
突然のことに心に穴が空いた状態になり理解できなかった。
『え?嘘でしょ?普通に元気だった人だよ?何で』と。

この前、食堂から戻ってきた孝雄さんを乗せた車椅子を居室に向かって押している花子さん。
たまたま車椅子の押し手に掛けてあったカバンが車椅子の車輪に当たり大きな擦れる音を出した。
孝雄さんが『何やってんだ!』と少し怒り気味の声で言うと花子さんは『誰でも失敗する時はあるんだよ』と穏やかに孝雄さんに言っていた。

花子さんに車椅子を押してもらってる孝雄さんの図

孝雄さんは耳が遠く補聴器をつけていても何度も聞き返される事があった。そんな時も根気よく孝雄さんに話していることを理解してもらうまでゆっくりと聞き取れる声で話しかける。
食事もよくご飯からおかゆの変更が頻繁だったため花子さんに『あんた、いい加減にしなさいよ』と窘められる事もあったが『大丈夫だよ、じゃあ明日からおかゆにしますね』とにこやかに答えたりしてた。

孝雄さんの心臓が止まって約2時間後に医者が到着し死亡を確認、それから葬儀社の人が来た。
花子さんは孝雄さんが亡くなり次の日になってもずっと泣いてた。口喧嘩することはあっても仲は良かったから。

ある程度体調の優れない利用者さんは長くはないかなとおおよそ悟り最期の別れを覚悟できる。
しかしある程度元気で普通に過ごしていた人が急に亡くなると本当に辛い。
人は必ずこの世を去ると分かっていても、だ。

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