【第五十九話】セネクトメア 第四章「天望のソウルリターン」
【前回までのあらすじ】
セネクトメアで貴ちゃんの行方を考えていた時、ふいに謎の軍団がホープライツのアジトに向かっていることが判明した。
ホープライツは五人しかいないのに、敵の勢力は何と三万。外で応戦すると決めた一同は、アジトを出て迎撃の体制を取る。
敵の目的も正体も不明の戦いは、果たしてどうなるのか。
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~セネクトメア・ホープライツのアジト前~
颯爽とメインルームを飛び出したスピカは、もうとっくに見えなくなっていた。
その後に、ジェニファー、エイミーが続き、アライが走る背中を俺は追いかけた。
アジトの出入り口を抜け、廃ビルの外に出ると、スピカが両腰に手をあてて、自信満々に遠くを見つめていた。仁王立ちにも見えるその姿は、とても頼もしい。
ジェニファー「さすがにまだ何も見えませんわね。」
手を水平にして目の上にあてて、ジェニファーも遠くを見る。まだ辺りは静かだけど、さっきモニターで敵勢力の姿を見たせいか、何となく何かの音が聞こえるような気もする。
アライ「さすがにあれだけの数に近づかれたらひとたまりもないから、遠距離攻撃の射程範囲内に入り次第、攻撃開始でいいと思う。ギブソンも如月もいないから、ここは僕が指揮を執るよ。」
エイミー「了解。てことは、私とジェニファーとスピカが攻撃陣ってことになるわね。」
アライ「僕は後方支援に回るよ。問題は、俊輔君か...。」
そう、問題は俺だ。そもそも戦闘自体これが三回目か四回目くらいだし、刀で斬りつける以外の攻撃方法はないし、遠距離攻撃なんて考えたことすらない。
スピカ「とりあえず待機で、接近戦になったら頑張ってもらえばいいんじゃない?まぁ、接近戦になった時点でアウトっぽいけどねw」
ジェニファー「確かに。俊輔さんと会うのも、今日が最後かもしれませんわね。」
スピカとジェニファーが面白おかしく笑う。こっちは全然笑えないぞ。
俊輔「てか、何でそんなに余裕なんだよ。相手は三万もいるのに。」
スピカ「こういう大きな戦いはなかなかないからねー。珍しいイベントはわくわくするよ。」
エイミー「キツイことしないと、成長できないからね。せっかくこんな楽しい世界にいるんだから、刺激的なことやりたいじゃん☆」
ダメだこいつら。現実世界の常識が通用しない。まるでゲームの中のできごとみたいに心から楽しんでる。でも実際は、この世界は感覚や思考を現実と同じように感じるので、もし危ない状態になったら、それなりに痛かったり苦しかったりするはずだけど。
そんなことを言ってるうちに、少しずつ黒い影が大きくなってきた。さっきまではほとんど静かだったのに、今では聞いたこともないような地響きみたいな音が聞こえてくる。間違いなく、さっきモニターで見た奴らが近づいて来ている。
アライ「敵勢力、最前線までの距離約千二百!四百メートルまで近づいたら攻撃開始!」
スピカ「りょ!」
スピカは、「小さく前にならえ」みたいに肘から先だけ前に突き出した。すると少しずつ武器が具現化して、数秒後には両腕に巨大なバルカン砲を携えた。めちゃくちゃ重そうだけど、スピカはそれを軽々と構えている。
エイミー「ひとまずコネクトは温存して、私たちは連携攻撃を仕掛けるよ。」
ジェニファー「了解ですわ。丸焼きにして差し上げましょう。」
エイミーとジェニファーはいつも通り、特に何も持たずにたたずんでいる。服装も、エイミーはひざ丈のスカートにカーディガンを肩にかけたカジュアルな格好だし、ジェニファーに関しては白いワンピース姿。はたから見たら、ショッピングに行くために電車待ちをしている女子大生二人組みたいな感じだ。
アライ「九百...八百...。敵からの通信なし、か。問答無用で勝負ってことだね。」
敵勢力がどんどん大きくなっていく。近づけば近づくほど、相手の数の多さに圧倒される。さすがにこれだけ敵が近くに来ると、アライ以外は声を発さなくなっていた。
アライ「五百...!四百!」
スピカ「Here We Go!!」
スピカが持つバルカン砲が火を放つ。もちろん弾は早すぎて目では追えない。敵もまだ四百メートルも先にいるので、当たってるのかも俺には分からない。
ジェニファー「ルフウォール!」
ジェニファーが右手の顔の前に構えて、手のひらを敵に向け、右方向に素早く振り払った。すると敵の最前線がいるあたりに、巨大な炎の壁が現れた。
エイミー「オイルレイン!」
このスキルは前にも見たことがある。空からオイルを降らせるスキルだ。そのオイルが炎の壁の上に降り注ぎ、大爆発を起こす!
轟音が鳴り響き、敵勢力の前進が止まる。正確には、炎の壁の向こう側が見えないんだけど、そこから現れる影は一つもなかった。
しかしスピカは発砲をやめない。そして次の瞬間、炎の壁を打ち消すように大量の水が滝のように押し寄せてきた。
炎の壁は消え、また敵勢力が押し寄せてくる。敵の誰かが水を呼び寄せるスキルでも使ったのだろうか。今は炎の代わりに、水の壁ができている。
ジェニファー「そうきましたか。それならそれで、これはどうです?グレースチェンジメント!」
ジェニファーはそう言い放ち、さっきと同じ動きをすると、水の壁は一瞬にして凍りついて真っ白になった。
ジェニファー「水の壁なんてむしろ好都合ですわ。」
ジェニファーが不敵に笑う。この子は人をおちょくるのが好きなのかもしれない。
アライ「気をつけて!氷の壁の左右と上方から敵が押し寄せてきてる!」
エイミー「そうなるよね。」
エイミーが、両手をクロスさせる。何かするのだろうか。
エイミー「フリーズバレット!」
エイミーがクロスさせた両手を外側に振り払うと、氷の壁が細かく割れ、氷柱状になって敵を突き刺す。フリーズバレット...氷の弾丸か。
エイミー「氷の壁なんて、むしろ好都合だね。」
まだ敵はかなり遠くにいるけど、明らかに前進するスピードが激減している。つまりそれだけ敵を倒せているということか。
エイミーとジェニファーの連携により、氷の壁は少しずつ減っていく。しかしそれでも敵の数が多すぎるせいか、徐々に敵勢力の最前線が近づいて来ている。
アライ「敵の最前線、距離三百まで接近!」
ジェニファー「ルフウォール!」
エイミー「オイルレイン!」
氷の壁よりこちら側にいる敵が増えたので、もう一度炎の壁を作って爆発させる。しかしまたさっきと同じように、水の壁でかき消される。そしてこちらが水の壁を凍らせ、氷柱の弾丸、フリーズバレットを乱射する。
スピカ「やっぱり数が多いと強いねー。これじゃあちょっとずつ近づかれちゃうよ。」
スピカの言う通り、このループを繰り返していると、いつかは敵勢力が俺たちの目の前に現れることになる。かなりの数の敵を倒しているはずだけど、それでも三万の兵力が尽きることはない。
アライ「動体反応あり!近いよ!俊輔君の右側面!」
俊輔「え?俺の?」
アライに言われた通り右方向を見ると、ブラックホールみたいな黒い穴が出現していた。何だこれ。
次の瞬間、全身が真っ白な人間の形をした不気味な奴が飛び出してきた!手のひらを広げて俺に突っ込んでくる。
俺は不意を突かれて、首を掴まれた。そのまま強く締めてきやがる。
すると俺の右手に黒刀政宗が出現し、敵を突き刺した。
白い奴「ぐぉぉぉぉおおおー!」
敵は俺を離し、その場に倒れて蒸発して消えた。政宗は敵の心臓を一突きに貫いたようだ。
俊輔「ゴホッ。ありがとう政宗。」
政宗「おいおい何だあいつは。てかまだ来やがるぞ!」
ブラックホールに目をやると、また例の全身真っ白な奴が飛び出してきた。どうやら敵はこの穴を通じて、俺たちの近くに敵を送り込んでいるようだ。
続く。
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