【第六話】セネクトメア番外編「エイミーとジェニファーの繋がり」

【前回までのあらすじ】

自分の命と引き換えにジェニファーを生き返らせたエイミー。スサールの神姫とフリドーは、そんなエイミーの霊体を前に様々な想いをはせる。果たして、同じことを繰り返さないための方法は?

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~セネクトメア~

気がつくと、一目でセネクトメアと分かるような風景が見えた。泣きつ疲れて眠ってしまったのだろうか。まだ夕方だったのに。

狛犬太郎「ワン!ワン!」

後ろから犬の鳴き声が聞こえてきたので振り返ると、そこにはやっぱり狛犬太郎がいた。誰か背中に乗っていて、地面に降りた。それはフリドーと神姫と、白いゴーストのようなエイミーだった。私は思わずみんなの元に駆け寄った。

ジェニファー「エイミー!これはエイミーよね?!」

フリドー「うん...まぁ一応そうだけど...この状態ってことは、現実世界では死んじゃったってことだね...。」

やっぱりエイミーは死んでしまったんだ。私を救うために。でもこうしてまた会えたことで、ほんの少し希望が見えてきた。この不思議な世界なら、もしかしたら何とかなるかもしれない。

ジェニファー「ねぇ神姫、エイミーを生き返らせる方法はないの?実際に私は生き返れたんだから、できるでしょう?」

神姫は無言のまま、まっすぐ私の瞳を見据えてくる。何かを読み取ろうとしてるのかもしれない。なら好きなだけ読むがいいわ。私のまっすぐで真剣なこの想いを!


神姫「まぁ、ないことはないけど。でもエイミーと同じことをしても、今度はあなたが死んでエイミーが生き返るだけだから、結局同じことの繰り返しよ。あなたが死んだら、エイミーはまたあなたを生き返らせようとするでしょうから。」

ジェニファー「そうね。エイミーならきっとそうする。なら他の方法はないの?」

神姫「私たちスサールは、現実世界に変化をもたらす行動はできないの。だから知っていても言えないこともある。もしエイミーを救いたければ、あなたが自分で考えて答えを見つけなさい。」

自分で?この世界のことなんてまだほとんど知らないし、エイミーが死んで時間が経てば経つほど生き返るのは難しくなるに決まってる!なのにそんなのんびりしてられないわ!


フリドー「ねぇ神姫...何とかしてあげようよ。掟を破らない範囲内でさ。神姫だって、本当はこの二人を助けてあげたいと思ってるでしょ?ね、お願い!」

フリドーが神姫にお願いしてくれてる。フリドーがどんな力を持ってるのかは分からないけど、やっぱり神姫の力は凄いのね。ここは神姫を頼るしかないかもしれない。

神姫「ふぅ。しょうがないなぁ。じゃあ、ジェニファーには絵を描いてもらおうかしら。」

ジェニファー「え?絵?」

急に何を言い出すかと思えば、絵を描く?別にいいけど、それがエイミーの復活と関係あるのだろうか。

神姫「私、あなたの描いた絵が見てみたいの。どんな絵でもいいから、あなたが全力で描いた一世一代の渾身の作品を作ってちょうだい。」

そういうと神姫は、私の目の前にキャンバスとイスと画材道具一式を出現させた。とにかく今は素直に頼みごとを聞くことにする。あれこれ考えず、神姫を信じて渾身の絵を描いてみよう。


私はイスに座り、いつもと同じように絵の具をパレットに出して、絵を描き始めた。渾身の作品を作るなら、あえて無心のままの方がいいと判断した。

一筆一筆、丹精を込めて描いていく。すると不思議なことに、身体から力が抜けていく。絵に気持ちを込めた分だけ、自分から生気が消耗してる感覚。なので少し絵を描く筆の力を緩めると、薄い色彩しか描けなくなる。現実世界で描く作業とは、何かが違う。

神姫「手を抜いたら良い作品は作れないわよ。死ぬ気で全力を尽くしなさい。」

神姫から厳しい言葉が飛んできた。病気の時とはまた違った苦しさが全身を覆う。生気を吸い取られる感覚は初めてだけど、きっとエイミーは、この苦しみを味わいながらも私を救ってくれたんだわ。そう思うと自然と涙が溢れてくる。そしてきっとこの絵を描く作業は、エイミーを救うことに繋がる。だから私も命を賭けてこの絵を完成させてみせる!


私は周りも全く見えなくなるくらい、全神経を集中させて絵を描き続けた。この作品が、もしかしたら私の人生で最期の作品になるかもしれない。入院中は疲れることをするのを禁止されてたから、しばらくこんな風に本格的に絵を描くことはできなかった。たとえ現実世界じゃなくても、生涯最高傑作を作れる機会を与えてもらえて嬉しかった。

しかし本当にキツい。五十メートルを全力疾走した直後に絵を描いてる感じ。座ってるだけでもキツいのに、絵を描くことに集中するのは並大抵のことじゃない。少し気を抜けばすぐに意識を失いかける。

それでも私は描くことをやめなかった。一筆に込める生命力、色彩を選ぶ感性に微塵の手加減もしない。一切妥協することなく、少しずつ少しずつ、絵を完成に向かわせていく。


ジェニファー「できた...。」

どれくらいの時間が経ったのかは分からない。でも私の生涯傑作と呼ぶにふさわしい絵が完成した。青・黄・緑・紫・水色などの色彩を全体に散りばめ、その一つ一つが重ね合いながら咲く大輪の華のような、宇宙全体を表現するような絵に仕上がった。私の中にある様々なものたちを全て凝縮して表現した。この絵が描けたから、たとえこのまま命尽きたとしても、もう思い残すことはない。ほんの少し気を抜いた瞬間、私の意識は途絶えた。



「できた」と言葉をこぼした後、ジェニファーはゆっくりと姿を消した。私には彼女のライフゲージが見えるが、ライフゲージはとっくにゼロになっていた。それなのに絵を描き続けるなんて、一体どうやったらあんなことができるのだろう。何か特別なスキルだろうか。でもまだ職種すら決めていないジェニファーは、何のスキルも使えないはず。もしただ気力だけであそこまでやれたとしたら、リンカーの力は部分的には私たちスサールを上回るのかもしれない。

フリドー「ジェニファー、頑張ったね。良い絵だね。」

神姫「そうね。ありったけの想いが込められてるんだもの。いくらお金を積まれても買えない傑作よ。」

私には、正直芸術のことはよく分からない。それでもジェニファーが描いた絵は、心を熱くさせる何かを秘めた絵だった。

フリドー「不思議だね。この絵は生きているの?ただの絵なのに、ジェニファーのライフゲージがそのまま移行してる。」

神姫「人の想いは、時に物に宿るものなのよ。」

私はジェニファーが描いた絵を手に取った。これだけの生気が込められていれば十分。またしても目の前で奇跡を見ることができて、久しぶりに嬉しい気持ちになった。

フリドー「それどうするの?」

神姫「エイミーにあげるのよ。ジェニファーは現実世界に戻ったから、エイミーが持ってるのが一番いいでしょ?」

私はジェニファーが描いた絵をエイミーの霊体に接触させた。するとエイミーの霊体は、ジェニファーと同じように、絵と一緒にゆっくりと姿を消した。

フリドー「え?どうなったの?」

神姫「現実世界に戻ったのよ。絵に宿った生気が移ったから、肉体に霊体が戻り、結果的に生き返るでしょう。これで一件落着ね。」

フリドー「凄い!ありがとう神姫!そうか!ジェニファーはセネクトメアでライフゲージがゼロになっても現実世界で目覚めることができるし、エイミーの霊体は、生気を受け取ることで現実世界で蘇るってことだね!最初からこうなる作戦だったんだね!」

神姫「そんなわけないじゃない。私はジェニファーが描いた絵を見たかっただけよ。でもやっぱりいらなかったから、エイミーの霊体に預けただけ。結果的に現実世界が変わったかもしれないけど、意図的に掟に背いたわけじゃない。」

フリドー「素直じゃないなぁ。まぁでも、そうしとこっか!」


いくつかの未来を見てみたけど、ジェニファーが生き続ける未来なんてほんの少ししかなくて、ほとんどの世界線ではジェニファーは死んで、エイミーが一人で生きていくことになる。それでも、無限に広がるパラレルワールドのひとつは、二人仲良くこれからも一緒に人生を歩んでいく。一部の人間は気づいてるけど、未来の可能性は無限大。だから寂しくなんかない。失ってしまった人も、どこかであなたと一緒に笑いながら生きているから。


神姫「半年後まで暇だと思ってたけど、思いがけないできごとがあって楽しかったわ。純粋でまっすぐな人間と関わるのは面白いわね。」

フリドー「半年後には何か起きるの?」

神姫「えぇ。私の片割れがここにやってくるのよ。今からワクワクしちゃうわ。」

フリドー「えー!何片割れって?!てか神姫に片割れなんていたの?」

神姫「もちろん。世界と未来を変えるには、彼の力が必要なのよ。ここも騒がしくなるわ。」

フリドー「それは楽しみだね!早く来ないかなー神姫の片割れ!」

無邪気に笑うフリドーを見て、私も微笑ましい気持ちになった。あなたにも活躍してもらうから、よろしくね。



~現実世界・エイミーの部屋~

エイミー「うーん...。あれ?」

いつの間にか寝てしまったのだろうか。窓の外から強いオレンジ色の光が射し込んでいる。私は床に散乱した本のすぐ近くで横になっていた。右手に何かの感触があったので視線を移すと、そこには微笑むジェニファーがいた。前に見た時のように透けていない。顔を見る限り血色もいい。いつもの無邪気で挑発的な表情を私に向けている。

ジェニファー「おはようエイミー。もう夕方よ。」

エイミー「うん。え?てか何でここにいるの?」

ジェニファー「私元気になったのよ。だから退院してきたの。」

エイミー「え?!元気になったって、病気治ったの?!」

ジェニファーは深くうなづいた。あんな末期の大病が治るなんて信じられない。世の中にはいくつもの奇跡と呼ばれる現象があるけど、その中でもありえないレベルの奇跡だ。これは夢じゃないだろうか。それくらい信じられない現実だ。


でも確か私は、ジェニファーを助けるために必死で、ゴーストになってセネクトメアを漂っていた気がする。でも何でこうして今現実世界で生きてるんだろう。まるで何事もなかったかのような現実が、不思議でならなかった。

エイミー「ジェニファー、何があったの?」

ジェニファー「別に何もないわよ。今までと同じように、私たちは死ぬも一緒、生きるも一緒よ。あ、そうそう。快気祝いに生涯傑作の絵を描いたから、あなたにプレゼントするわ。あとね、昨日電話で言おうとしてた話!私ね、セネクトメアっていう現実と夢の狭間の世界に行ったの!それでね...」

ジェニファーは本当に病気が完治したようで、目を輝かせながら元気に楽しそうに、夜になってもセネクトメアの話を喋り続けた。部屋の壁には、ジェニファーが言う生涯傑作の絵が飾られていた。それはまるで、命と宇宙を繋げ合わせ、まっすぐで純粋な想いを表現したような魂の作品だった。

世の中には、科学や理論で説明できないことが沢山ある。それは実際に体験した者にしか分からない。でも私とジェニファーは、これから何があっても共に人生を歩んでいく。死ぬも一緒、生きるも一緒。与えられた命を少しずつ輝かせながら、未来に向かっていこう。これからもずっと。


セネクトメア番外編「エイミーとジェニファーの繋がり」 完






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