【第五話】セネクトメア番外編「エイミーとジェニファーの繋がり」

【前回までのあらすじ】

エイミーは自らの生気をジェニファーに与えることで、霊体状態のジェニファーを復活させようとする。その代償としてエイミーは...。

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~現実世界・病院~

ジェニファー「エイミー!」

私は大きな声をあげながら飛び起きた。視界に入ってきた風景はエイミーの部屋ではなく、ずっと過ごしてきた入院部屋だった。両手を見て、鏡を見て、自分の姿を確認する。間違いなく私は生きていて、ここは現実世界。私は生き返ったの?

でもそんなことを考えてる場合じゃない。私が生き返ったということは、エイミーが死んでしまった可能性がある。時は一刻を争う。私は腕に繋がれた管を全て抜き取り、病室の外に飛び出た。

「え?ジェニファーさん?!」

するとタイミング悪く、看護師とバッタリ会ってしまった。私は方向転換して走り出す。

「待って!」

背後から看護師の声が聞こえてくるが、全力で無視。そして全力疾走。病院だからといって構うもんか。こっちは親友の命がかかってるんだ!


ハァ、ハァ

しかし気持ちとは裏腹に、身体が言うことを聞かない。長い間寝たきりだったせいか、少し走っただけで肺が張り裂けそうなくらい苦しい。私はその場にひざをつき、うつむいた。そして看護師が何人か周りに集まってきて、担架に乗せられて病室に戻されてしまった。

やがて医者や母親が到着し、私の意識が戻ったことを喜びつつ、病室を飛び出して走ったことをきつく叱られた。今の私の身体では、自殺行為らしい。でも一度心肺停止状態に陥り、意識がない状態を経て、走れる状態にまで回復したことは奇跡的な復活らしかった。

再び色んな管を腕に刺され、ベッドに横たわる状態に戻ってしまった。しかし冷静に考えたら、入院着のまま無一文で体力のない状態で、エイミーの家まで辿り着くのは難しい。でもだからといって、今の状況で私の外出許可が下りるはずない。母親にエイミーの様子を見てくるようにお願いしてみたけど、私がまた無茶をしないように見張るため、今夜はここに泊まるらしい。どうしよう。


トントン

母親にお説教をされている最中、ふとドアをノックする音が聞こえた。ドアがスライドすると、見慣れない医者が部屋に入ってきた。

医者「お母さん、ちょっといいですか。」

母親「はい。」

母親が立ち上がると、医者は無言でドアの方に手を向け、一緒に病室を出るようなジェスチャーをした。そして母親は医者と一緒に病室を出て行った。恐らく私の容態についての話だろう。

トントン

そのほんの数秒後、またしてもドアをノックする音が聞こえてきた。ドアがスライドして、誰かが中に入ってきた。またしても知らない人だけど、医者でも看護師でもない。目の前に現れたのは、私服を着た若い男性だった。


「初めまして。さっそくですが、これに着替えてエイミーの部屋に向かってください。タクシーは表に手配済みです。」

いきなり何を言い出すのこの人。明らかに不審者だ。でもエイミーのことを知ってるみたいだし、服とタクシーまで用意してくれてる。今の私からしたら、願い事を全て叶えてくれる人。疑ってる暇はない!

ジェニファー「ありがとうございます!」

お礼を言うとその男性は、ニッコリ笑って病室を出て行った。私はドアに鍵をかけて、急いで着替えた。深めの帽子と伊達メガネも用意してくれていたので、ちょっとした変装みたい。でもおかげですんなり病院を抜け出せそう。


思惑通り何事もなく病院の外に出た私は、停車中の一台のタクシーに乗り込んだ。乗った瞬間タクシーは走り出し、ナビを見るとエイミーの家が目的地に設定されていた。何だろうこれは。かなり怪しいけど、とにかく今はエイミーの家に行くことが最優先。私は無言のまま車に揺られて、色んな事を考えていた。

さっきは走って疲れちゃったけど、こうして普通にしてると健康そのもの。まるで身体から悪い病気が全ていなくなったみたい。文字通り生き返ったような感覚。じゃなきゃ起きたばかりの時に走り出すこともできなかった。

つい昨日は、初めてセネクトメアという場所に行き、自分がリンカーになったことを知った。そこで不思議な体験を沢山したし、色んな事を知ったけど、その後のエイミーの部屋でのできごとの方が、中途半端に現実的で不思議だった。あの時の私の状態はゴーストだったのだろうか。それとも、別次元の世界に足を踏み入れていたのだろうか。きっと答えは誰も教えてはくれないだろう。


そうこう考えている内に、エイミーの家の前に辿り着いた。私は急いでタクシーから降りて、エイミーの家のドアを開ける。鍵はかかっていなかったので、そのまま二階のエイミーの部屋まで駆け上がる。

ジェニファー「エイミー!」

エイミーの部屋のドアを勢いよく開けると、エイミーは本棚の前に倒れていた。急いで駆け寄って揺さぶるけど、反応はない。身体は透けてないけど、少し冷たい。脈を計ってみるけど、動いてない。私は背筋が凍りついた。来るのが遅かった。

ジェニファー「ごめんねエイミー。ごめんね...。」

涙が次々に溢れ出てきて、エイミーの綺麗な顔に落ちる。本当は私が死んでエイミーが生きるはずだったのに、逆になってしまった。私のせいだ。私は自分で病気になっておきながら、親友の命と引き換えに生き延びてしまった。

神様お願いします。何でもします。これから悪いことは絶対しません。嘘もつきません。だからエイミーを生き返らせてください。お願いします。

そんなこと祈ったところで、人が生き返るわけない。分かってるけど、すがらずにはいられなかった。私はありったけの力を込めて、エイミーを強く抱きしめた。



~エイミー宅前・タクシー内~

「会長ー。無事にエイミーんちに着いたけど、さすがに間に合わないんじゃないですかー?」

仕事だからしょうがなく娘一人を乗せてここまで来たが、相変わらずあの人の考えてることは分からない。タクシー無線で一応報告させてもらってるが、こうなることは言わなくても分かっていたはず。でも何か理由があってこうしてることは明らかだった。

「いいんですよこれで。彼女たちは唯一、コネクトを発動させたリンカーですからね。ここで死なせてはいけません。」

「てかとっくに死んでると思いますよー。ジェニファーが目覚めてから一時間は経過してますから。」

「しかし実際に、一度死んだジェニファーも生き返りましたからね。様子見といきましょうか。これでもしエイミーも復活するようなことがあれば、あれは本物...ということになりますね。」

あれは本物?意味深な言い方だ。まぁでも会長のお考えになることだ。何か意味があってこうしているのだろう。俺はとりあえず、命令に従うだけだ。

「ひとまず、指示があるまでそこで待機していてください。何か変化があったらすぐに報告を。」

「了解。」

無線を切り、シートを倒してフロントガラス越しに夕日を眺める。一体世界の仕組みはどうなってんだろうなー。科学では説明がつかないことなのか、科学で作り出された何かのか。正直、ネットの仕組みもよく分かってないのに、それ以上難しいことなんて理解できるはずない。でも世界の裏側では俺たちが知らない色んな事がおきていることは確かだ。何も知らない方が気楽でいいなー。とりあえず暇だから、ツムツムでもやっとくか。



~セネクトメア~

狛犬太郎「ワン!ワン!」

フリドー「ちょ!狛犬太郎!急にどこ行くのー?!」

いつもは従順な狛犬太郎が、急に走り出した。僕は狛犬太郎にしがみつきながら上下に揺さぶられる。


狛犬太郎「ワン!ワン!」

狛犬太郎は急に止まり、また吠え出した。その先には、一体のマードリがいる。どこかで見たことあるような...。僕は狛犬太郎から飛び降りて、そのマードリに近づいた。

フリドー「これ...エイミーじゃん!」

そのマードリは、昨日リンカーになり、コネクトを発動して見せたエイミーだった。そのエイミーがマードリになってるってことは...現実世界で死んじゃったってことか。結局。


神姫「あーぁ。やっぱダメだったかー。」

隣に急に神姫が現れた。いつもこうだからビックリする。多分本人も、僕がびっくりすると分かっていてわざとやってるから、あえて驚いた素振りを見せないようにする。と考えてる時点で、神姫には本音が筒抜けなんだけどね。

フリドー「やっぱダメだったって、エイミーが死ぬと思ってたの?」

神姫「かなりの高確率でね。でも普通、人間は自分が死ぬかもしれないのに他人の命を救おうなんて思わないでしょ?なのにこの子は本当にやっちゃったんだね。」

人間嫌いな神姫が、珍しく人間に対して慈しむような瞳を浮かべている。人間だって悪い奴ばっかじゃないのに。ちょっとは見直したかな?

神姫「見直したってわけじゃないけど、この子は命を賭けて親友を救った。それは事実よ。こういう純粋な魂を持った人間に限って早死にするんだから。世界は理不尽ね。逆に悪人ほど早く死ねば、世界は素晴らしくなるのに。」

フリドー「確かにそうかもしれないけど、これが現実だよね...。」

人の生き死になんて、本来は誰にも左右できない。一度死んだ人間は生き返れない。でもそれを分かっていながら、何とか生き返ってほしいと願うのも、人間の美しさのひとつだと思った。


神姫「あなたは本当に人間好きね。まぁいいけど。きっとその内ジェニファーが来るでしょう。あの子はどうするのか見ものね。」

狛犬太郎「ワン!ワン!」

そう言っている内に、またしても狛犬太郎が吠え出した。どうやらジェニファーがセネクトメアに来たようだ。現実世界で眠ったのか、それとも自分の意志でセネクトメアにやってきたのか。どっちか分からないけど、ジェニファーが死んだ時と逆パターンの今回は、どうすればいいんだろう。前回と同じことをしていたら、エイミーとジェニファーが交互に死んだり生き返ったりするだけ。僕としては、何とか二人を助けてあげたいんだけど、何かいい方法はないかな。


続く。


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