【第三話】セネクトメア番外編「エイミーとジェニファーの繋がり」

【前回までのあらすじ】

セネクトメアに辿り着いたエイミーは、フリドーと狛犬太郎に遭遇。更にジェニファーの霊体を見つけ、ジェニファーが死んでしまった事実を知る。しかしコネクトを発動したエイミーとジェニファーは、神姫の助言もあり、二人一緒に現実世界に戻ることになった。

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目を開くと、真っ暗な部屋の中に私はいた。いつも寝てるいつもの部屋。時計は朝の五時二十分。セネクトメアでジェニファーに触れていた感覚は、今はない。やっぱりあれはただの夢だったのかもしれない。

私はスマホからジェニファーのPHSに電話をかけた。でも予想通り出ない。ジェニファーは今どうなってるのか。それしか頭の中にない。私は急いで着替えて、ジェニファーが入院している病院に向かった。


~現実世界・病院~

ジェニファーの部屋のドアをノックすると、中から「どうぞ」と女性の声が聞こえてきた。ゆっくりドアをスライドさせて中を覗くと、医者と看護師がベッドの周りを囲っている。ジェニファーの母親もいて、心配そうな顔をしている。

エイミー「おばさん、何かあったんですか?」

母親「かなり危険な状態みたい。一時は心肺停止状態になったけど、何とか蘇生して、でも意識が戻らないの。」

おばさんは涙を流しながら現状を教えてくれた。私はおばさんの肩を軽くさすった。

医者「一時は完全に死亡したかと思いましたが、ありえないことに数分後に脈が戻ったんです。あんなのは今まで見たことがない。奇跡ですよ。」

やはりセネクトメアでのできごとは、夢じゃなかったのかもしれない。仮にあの時の現象がジェニファーを現実世界に呼び戻したとして、なぜ目が覚めないんだろう。私とジェニファーの霊体が一緒に現実世界に戻ったのなら、ジェニファーは今どこにいるの?


ジェニファーの母親が「とりあえず、何かあったら連絡するわね。」と言ってくれたので、私は自宅に戻った。今日は大切な試験がある日だから、大学に行かなければいけない。勉強なんてほとんどしてないし、全然集中できないけど、試験を受けないよりだいぶマシだろう。私はバッグに必要な物を詰め込んだ。

ガタガタ

何か変な音が聞こえた。何かが揺れる音?

ガタガタ

まただ。ベッドの反対側にある本棚から聞こえてくる。後ろにねずみでもいるのだろうか。

ガタンッ

バサバサー

より大きな音と共に、本棚から本が飛び出して落ちてきた。まるで本棚だけ地震でも起きたかのような状態だ。恐る恐る空っぽになった本棚を覗いてみるけど、何もない。そっと触れてみても、ただのプラスチックの感触しかない。どこからどう見ても、いつも通りの普通の本棚だ。

でもいきなりこんなに沢山の本が一斉に落ちてくるなんてありえない。これも何か意味があるのだろうか。一冊一冊の本を眺めながら、何か規則性みたいなものがないか考えてみた。でも特に何も共通点は見つからなかった。学校に行く時間も迫っているので、ひとまず本は散らばった状態のままにして、私は大学に向かった。


〜現実世界・大学〜

昨夜のセネクトメアやジェニファーのことがどうしても頭から離れなくて、試験に集中できなかった。でも内容が簡単だったので、特に支障はなさそう。

早々と試験を終了し、教室の外に出てベンチに座る。冬なのに快晴のためか、今日はコートをはおらなくても十分暖かく過ごせる。私はまどろみながら色々整理しながら考えてみた。

一時心肺停止状態に陥ったジェニファーは、何とか一命をとりとめたけど、意識が戻らない。それは医学的な理由か、それともセネクトメアでのできごとが関係しているのか。私はてっきり、ジェニファーの霊体を現実世界に戻せたと思っていた。でも戻ったのは私だけだった。

もし医学的な理由でジェニファーの意識が戻らないのなら、前までと同じように、私にできることは何もない。でもそうじゃないとしたら?セネクトメアでのできごとが原因で、本当は死んでいたはずのジェニファーの身体を蘇生できたとしたら?

そういえば、セネクトメアから目覚める時、私は今までと同じように起きた。更に、セネクトメアでの最後の記憶は、ジェニファーを抱きしめた状態で空に浮かび上がり、どんどん上昇していく感覚。もしあれが、現実世界に戻る直前の記憶だとしたら...。

あくまで仮説だけど、ジェニファーの霊体は現実世界にいて、肉体に戻れてないだけなのかも。そして更に想像の話になるけど、私と一緒に現実世界に戻ったってことは、ジェニファーの霊体も私の部屋にいる可能性がある。

そうだ。本棚から沢山の本が崩れ落ちてきたのは、ジェニファーが自分の存在を知ってもらうためのサインかもしれない。でも実際は、ただいつもと変わらない本棚があっただけ。もちろん本棚の後ろに人が入れるスペースはない。

とにかく、全ての試験が終わったらすぐに家に帰って、色々調べてみよう。私にしかできないことが、何かあるかもしれない。



~現実世界・エイミーの部屋・朝~

ジェニファー「うーん...。あれ?」

いつもの朝のように目覚めた感じがするけど、ここはどこ?今まで見たことのない光景が目の前に広がっている。どこが上でどこが下かもよく分からない。セネクトメアとも全然雰囲気が違う。しかも、何だかフワフワしてる。まるで無重力空間のように身体がゆっくり回転していて、不思議な感じ。ちょっと楽しい。

そういえば昨日は、エイミーに電話をしてから意識が遠のいたんだった。少し苦しかったからかなり危機感を感じたけど、大丈夫だったのかな?今の状況を見る限り、全然大丈夫そうじゃないけど。もしかしたら私、ゴーストになっちゃったとかじゃないよね?

ゴーストになったとしたら、私はもう死んでしまったことになる。それだけは勘弁してほしいけど、随分身体が楽だ。病気なんて全然忘れちゃうくらい元気。そういう点では、セネクトメアにいる時と同じ部分もあるなぁ。

考えててもしょうがないので、適当にスイーッと前に進んでみる。こんな感じの映像を、映画なんかで見たことある。やっぱり宇宙船の中にいるみたい。周りには茶色や黒の直線が複雑にまじりあった壁や天井が広がっている。しかし少し離れたある部分だけ、微妙に光が射し込んでいる。とりあえずあそこに行ってみようかな。何か見えるかも。

スイーッスイーッ


ようやく光が射し込んでいる場所に辿り着き、ソワソワしながら覗いてみた。何が見えるかな。

するとそこには、どこかで見たことのある部屋が広がっていた。そしてあれは...エイミー?!間違いない!ここはエイミーの部屋だわ!え?てことは、ここはエイミーの部屋の本棚の裏?

いえ、そんなはずはない。だって私は、随分長い距離を移動してここまで来たんだもの。少なくとも百メートルは向こうから来た。どういうこと?

この空間といい、身体の感覚といい、不可解なことは沢山あるけど、とりあえずエイミーに気づいてもらおう。

ジェニファー「エイミー!私はここよ!」

ありったけの大声を出したけど、エイミーは全く気付いていない。壁をドンドン叩いてみても、エイミーには何も聞こえてないみたい。困ったなぁ。何か良い方法はないかしら。


ふと壁を見ると、さっき叩いていたところが透明になってる。試しに違う場所も叩いてみたら、そこも透明になった。私はそこら中を叩いて透明な部分を増やした。すると数冊の本が少し水色に光っている。何なのかしら?私は試しにその本に触れてみた。

ガタガタ

あれ?今、この本動いた?気のせいなんかじゃない。他の光っている本にも触れてみたら、その本もわずかに動いた。その証拠に、エイミーの視線がこちらに向いている。なぜか水色に光っている本だけはこちらから動かせるようだ。よーし。こうなったら...。私は思いっきり力を込めて、水色に光っている本が重なっているところを叩いた。

バサバサーッ

するとその勢いで、その本たちは本棚から崩れ落ちるように散乱した。これでエイミーも、何かおかしいと気づくかもしれない。

そこで崩れ落ちた本を見て、あることに気づいた。床に散乱している本、つまり水色に光っていた本たちは、私がエイミーにプレゼントしたものだ。しかも、元々は私が持っていて、エイミーにあげた本。つまり、私の所有物。もしかしたら、自分が持っていた物にはこちらからも干渉できるのかもしれない。


でも床に散乱した本が私にもらったものだと、エイミーは気づかなかった。何か急いでいるようだ。そういえば昨日の電話でも、この日はお見舞いに来れないと言っていた。何かどうしても外せない用事でもあるのだろうか。エイミーは散乱した本を片づけることもせず、部屋を出て行ってしまった。

一人ぼっちで取り残された私は、エイミーが帰ってきてからどうやって気づいてもらおうか考えた。エイミーの部屋の中にある私の所有物を使って、何とかならないかしら。


続く。

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