【第六十ニ話】セネクトメア 第四章「天望のソウルリターン」
【前回までのあらすじ】
セネクトメアで突如、ホープライツのアジトに三万もの敵群勢が押し寄せてくる絶体絶命の大ピンチを迎える。
全滅する確率99%以上の状態まで追い詰められた時、神姫がその圧倒的な力で敵群勢を殲滅した。
なぜ敵群勢が攻め寄せてきたのか。
神姫はなぜホープライツを助けてくれたのか。
不可解なことだらけの中、俊輔はまたしても未来の世界で目醒める。
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〜現実世界・自宅〜
リビングに行くと、姫子は座って髪をヘアアイロンで整えていた。まるで結婚式に招待されたかのような綺麗なドレスを着ている。どこかに出掛けるのだろうか。
鏡越しに俺と目が合う。
姫子「おはよう。」
姫子はすぐに視線を鏡に戻した。
俊輔「おはよう。」
俺も挨拶したけど、頭の中はこんがらがっていた。セネクトメアで起きたことについても考えたいけど、本当の問題はこっちだ。
高校ニ年生の俺が前回同様、なぜ十年後の未来で目醒めているのか。
このまま未来の自分として生きていくのか。
なぜセネクトメアでは元の時間軸なのか。
貴ちゃんはどうなったのか。
セネクトメア計画とは何なのか。
分からない。何一つ。
姫子「早く着替えて髪整えなよ。遅刻しちゃうよ。」
ヘアアイロンを鏡越しに見つめたまま、姫子は俺にそう告げた。
俊輔「うん。まぁでも髪はこのままでいいや。」
後で歯磨きをする時に一応確認するけど、軽く整えるくらいでいいだろう。前に出勤した時の感じだと、お客さんに会ったり接客するような仕事でもなさそうだし。
すると姫子はヘアアイロンを髪から離し、俺の方へ振り返った。少し驚きつつ笑った顔をしている。
姫子「さすがに今日はビシッとキメてよ。一世一代の晴れ舞台なんだから。」
俊輔「え?」
晴れ舞台?
今日は何の日なんだろう。
姫子は既にドレスを着ているから、俺たちの結婚式ってわけでもなさそうだし、友達の結婚式に出席するなら、俺の晴れ舞台ではないはず。成人式でもないし、一体何の晴れ舞台だろう。
てか今思い出したけど、前回は確か会社の机で資料を見ようとしたところで終わっていた。そのままセネクトメアで目醒めたってことは、仕事中に眠ったのだろうか。
でもそれならどこかで目醒めて帰宅しているはずだ。なのに俺にはその記憶がない。これもおかしな点だ。
また謎が増えたと思いきや、姫子が頭にはてなを浮かべたような顔をしてこちらを見ている。とりあえずこの場を取り繕っておくか。
俊輔「そうだよね。服は…」
周りを見渡すと、正面のカーテンの前にタキシードが掛けられていることに気づいた。これを着ていくのか?
姫子「そうそれ。」
俺の視線の動きを追った姫子が笑顔で答える。まさに晴れ舞台にふさわしい服装といったところか。
俊輔「ありがとう。じゃあ着替えて髪整えて歯を磨くね。」
姫子「うん。」
姫子は俺が部屋に入って来た時と同じように、また鏡に視線を戻し、ヘアアイロンで髪を整え始めた。
とりあえず俺も身支度を済ませよう。
一通りの準備が済み、家を出て車に乗り込む。今回は姫子が助手席のドアを開けたので、俺が運転ってことか。
運転席側のドアを開けて座り、ハンドルやその付近を見る。身体は十年後でも頭は高校生のままなので、車の運転なんてできない。やってできないことはないと思うけど、かなり危険だ。どうしよう。
姫子「どうしたの?」
姫子がキョトンとした表情で俺の方を見る。
俊輔「今日は緊張しちゃうから、運転変わってくれる?」
俺は咄嗟に思いついた言い訳をした。
姫子「え?運転なんてしないじゃん。」
俊輔「え?」
車に乗り込んだのに車の運転をしないっていうのは、どういうことだろう。姫子と見つめ合ったまま、数秒の時が流れる。そして姫子が笑い出した。
姫子「ねぇさすがに緊張し過ぎじゃない?落ち着いて。」
どうやら俺が緊張し過ぎて、いつも当たり前にやっていることができてないと思われたようだ。この場はとりあえずこの流れを利用しよう。
俊輔「あはは、ごめんごめん。やっぱり考えたいことあるから、運転代わってもらっていい?」
姫子「だから運転なんてしないでしょ。ほら、ブレーキ踏んでそこにあるボタン押すだけだよ。」
ブレーキブレーキ…。足元を見るとパッドが二つあるけど、確か左の大きい方がブレーキだよな。そこにあるボタンは…。
ハンドルの右側全体を見ると、「Power」と書かれた紫色のボタンがあった。電源というからには、多分これだろう。俺は足元にある左側のパッドを踏み、「Power」ボタンを押した。
「ピーッ」という音が鳴り、ハンドルの左側にある液晶画面が表示される。
姫子「あ、ナビは昨日入れといたから、そのままで大丈夫だよ。」
俊輔「あ、あぁ。ありがとう。」
とりあえず液晶画面を眺めていると、地図のような画面に切り替わった瞬間、機械的な音声が「目的地に向かいます」と告げる。
しかし車は動かない。またしても姫子が笑い出す。
姫子「あれ?何で動かないんだろ。ってブレーキいつまで踏んでるの?」
俊輔「え?あぁごめんごめん。」
俺は急いでブレーキから足を離した。すると車が勝手に動き出してビックリした。
姫子「大丈夫?リラックスして。」
姫子は笑いながら口に手を当てる。俺は苦笑いを返した。
そして車は道路に出る前に自動で止まり、自動で走り出した。
俊輔「すご。何もしてないのに走ってる。」
姫子「何年前の人なの?もうこんなの当たり前じゃん。」
姫子は楽しそうに笑ってる。正直、姫子の性格はほとんど知らないけど、元々こんな明るい人なのだろうか。それとも、晴れ舞台でご機嫌なのだろうか。
というか、十年後の未来では、車は自動運転が当たり前なのか。確かにこの間も、運転席には姫子が座っていたけど、ハンドル操作とかしていなかったな。
車は快適に走り続け、俺は窓から流れる景色を見続けていた。姫子は何も喋らない。周りの車を見ると、寝てる人やスマホをいじってる人もいた。
姫子「今日は何を話すの?」
ふいに姫子に質問される。
俊輔「えっと…何話そっかなー?」
姫子「あえて決めてないんだね。さすがだね。私も、それでいいと思う。」
何か納得されちゃったけど、ヒントをくれ。あえて決めてないんじゃなくて、「そもそも俺話すの?」って思ったし、どこで何をするかも分かってないんですけど。
どうやら、俺の苦笑いやしどろもどろな状態は、全て緊張してるせいだと思われているようだ。
それはそれで都合が良いけど、この先が心配だ。
続く。
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