【第五十三話】セネクトメア 第四章「天望のソールリターン」

【前回までのあらすじ】

突然現れたスエテにより、マイオールのアジトに招待された俊輔と貴人。そこでキヨが、肉体と霊体を切り離す薬を貴人に投与したことや、外敵が貴人とキヨの命を狙っていた事実を知る。さらにキヨは、自分が未来から来たことを告げるのであった。

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キヨが未来から来た...。確かにどことなくそんな感じはしていたけど、自分以外にも過去にタイムリープした人間が目の前にいる。それは不思議な感覚で、親近感を膨らませつつも、どこか複雑な気分だった。常識では考えられないことが次々と目の前に現れて、頭の理解が追いつかなくて、脳内が疲れたような諦めたような状態に陥った。

俊輔「キヨは、どうやってタイムリープしたの?」

頭がこんがらがっているので、あえてシンプルな質問をしてみる。

キヨ「私が本来生きていた未来では、そこまで難しい技術じゃないの。私の他にも、何人もタイムリープしてるわよ。貴ちゃんや私の命を狙ってる奴らも、未来からやってきたし。」

俺はふと、右後ろにいる貴ちゃんを見た。貴ちゃんはポカンとした顔をしていたが、俺と目が合うと口元だけ笑って見せた。少し怖がりつつも信じられないという感じだ。

俊輔「え?そこまで難しい技術じゃないって、そんな遠い未来からタイムリープしてきたの?」

キヨ「まぁね。あなたとは違って、数年後から来たわ。だから色々知ってるわよ。」

キヨは得意そうに笑った。全てを見透かせる神姫とは違い、そもそも知っているという優位性をかもし出している。しかし数年後にはタイムリープが珍しくないのか。とんでもない科学の発展だな。


俊輔「わざわざ数年後の未来から、そもそも何をしに来たの?」

キヨ「ある大切な人との約束を果たすため。それだけよ。」

さっきとはうって変わり、真剣で少し寂しそうな表情になった。大切な約束って何だろう?聞きたいけど、踏み込んじゃいけない気もする。おれは空気を読んで、それ以上突っ込まなかった。

キヨ「とりあえず、このまま貴ちゃんを昏睡状態のままにさせたら、自然と肉体のエネルギーが減り続けて、その内本当に死んじゃうからね。早く貴ちゃんの霊体を肉体に戻してあげてね。」

俊輔「どうやって?」

キヨ「コネクトって分かる?この間の戦いで、エイミーとジェニファーが使ってたやつ。ほら、水色の光がパーッと広がって、めちゃくちゃパワーアップしたでしょ?覚えてる?」

俊輔「覚えてるよ。確かリンカーになる前から強い絆で結ばれている者同士しか使えないスキルだよね?」

キヨ「そう。今のところコネクトを使えるのはエイミーとジェニファーだけだけど、あなたたち二人も条件を満たしてるかも。もしコネクトを使えるなら、あなたが貴ちゃんの霊体と一緒に現実世界に戻ってみるのが一番良い方法かな。」

確か神姫が言ってた、貴ちゃんを生き返らせる方法の三つ目が「反魂術」だった。俺の身体に俺と貴ちゃんの魂を移動させて、現実世界に矛盾を生じさせるという、99%失敗する危ない賭けだった。それに比べたら、コネクトを使って現実世界に戻る方が確実かも。


キヨ「ちなみに、あなたは今夜自分の部屋で寝てるの?」

俊輔「いや、何かあっちゃいけないと思って、貴ちゃんの病室に泊まってるよ。」

キヨ「さすがね。いいじゃない。あなたの肉体のすぐ近くに貴ちゃんの肉体があるなら、現実世界に戻った時にそのまま意識を取り戻せるかも。二人以上の霊体が一緒に現実世界に戻る、いわゆるソールリターンと呼ばれる現象は、物理的な距離が近ければ近いほど確実性が増すのよ。」

言ってることがよく分からない部分もあるけど、とにかく良い状況らしい。

俊輔「ちなみに、失敗したらどうなるの?」

キヨ「そこは未知数。魂が砕け散る可能性もあるし、霊体と肉体が適合せずに幽霊になる可能性もある。ジェニファーの場合は、五次元の世界に迷い込んじゃったし、何がどのくらいの確率で起きるのかは分からない。だから危険な賭けであることに変わりはないわ。もちろん、俊輔も貴ちゃんも無事に元の身体に霊体が戻る可能性もあるから、挑戦してみる価値は大いにあるけどね。」

俊輔「やってみないと分からないってことだね。まぁ反魂術よりはよっぽどマシそうだから、やるしかないか!」

俺は貴ちゃんがいる方に向き直り、力強く右手を差し出した。貴ちゃんは無言のままはにかみ、ゆっくりと右手を差し出したので、俺たちは握手をするように手を繋いだ。


貴人「大丈夫かなぁ...。スーハー。」

俊輔「どのみち、このままじゃ現実世界に戻れずに死ぬんだから、やるだけやってみよう!」

貴人「そうだよね。さすがに高校生で死ぬのは早すぎるから嫌だな。」

俺はコクリとうなづいた。貴ちゃんを励ますために元気に振る舞っているけど、内心は不安でいっぱいだった。今までは未来を見通せる神姫が一緒にいて、時空を司る女神であるしょーこの力で世界線を移動したり、過去に戻ったりした。でも今回は自分たちの力でありえないことをしようとしてる。安全ベルトなしでジェットコースターに乗る気分だ。


俊輔「で、どうすればいいの?」

キヨ「お互い、相手になった気持ちになって、「コネクト」って言うのよ。」

それだけかい。簡単すぎて逆に難しそうだ。

俊輔「よし。じゃあ貴ちゃんは俺になった気持ちになって。俺は貴ちゃんになった気持ちになるから。」

貴人「分かった。」

静かに目を閉じて、貴ちゃんをイメージする。貴ちゃんの性格や考えや思いを想像して、相手になりきったつもりになる。こんなこと考えたのは初めてだけど、何となくしっくりくる。

俊輔「せーの、で「コネクト」ね。」

貴人「オッケー。」

俊輔「せーの!」

俊輔と貴人「コネクト!」


すると微かに、二人が繋いだ手から水色の光が水蒸気のようにモヤモヤ立ち昇ってきた。これは成功なのか?エイミーとジェニファーの時は、もっと沢山の光が眩しいくらい溢れていたのに、これも同じコネクト?

キヨ「おー。一発で成功するなんて凄いね。まだ小さくて不安定だけど、一応コネクト成功ね。そのまま、二人とも現実世界をイメージして。スエテ、二人を外に。」

スエテ「了解です!ワープ!」

いつものように、紫色の光が俺たちを包み込み、光が晴れると俺たちは建物の外にいた。もうここには俺と貴ちゃんしかいない。

俊輔「戻ろう。現実世界に!」

貴人「おう。てか俊ちゃ、ありがとね。ここまでしてくれて。」

俊輔「え?あぁいいよ別に。今度パフェでもおごってくれれば。」

冗談で返したつもりだったが、貴ちゃんは少し泣きそうな顔をしていた。俺には、それが少し意外だった。

貴人「ここでこんな風に、また出会えて良かった。本当は終わっていた命が、またこうして続いてると思うと、本当に感謝しかないよ。」

俺は静かに微笑んだけど、何でこんな時にこんなこと言うんだろう?まだ復活したわけでもないのに。やけにしんみりしていて、らしくない。

俊輔「多分逆だったら、貴ちゃんも同じことしてくれたと思うから、全然普通だよ。俺たちの人生はまだこれからなんだから、もし俺がピンチになったら助けてね。」

貴人「うん、絶対助けるよ。約束する。」

その声を聞き届けた後、急に空に舞い上がる感覚になり、意識は途絶えた。その瞬間俺は、これで二人とも現実世界に戻り、ハッピーエンドを迎える未来を想像していた。


しかし運命の歯車は、そこまで単純じゃなかったらしい。これだけ訳の分からないことだらけだから、ある意味当然かもしれないけど、複雑に絡み合った糸は、そう簡単には理想の未来を縫い合わせてはくれない。

どこにでもいる普通の高校生として生きていた俺たちは、いつの間にか様々な思惑や出来事のど真ん中に放り込まれ、荒波に呑まれながらもがくように、手探りで答えを探す試練を与えられていた。

ただ親友を救いたいという、無謀で純粋な想いは、良くも悪くも世界中の未来を変えることになる。

続く。


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