【第五十七話】セネクトメア 第四章「天望のソウルリターン」

【前回までのあらすじ】

なぜか十年後の未来に辿り着いた俊輔は、セネクトメア計画という謎のプロジェクトのリーダーを務めていた。
このセネクトメア計画とは、あの現実と夢の狭間の世界を丸ごと再現するプロジェクトなのだろうか...。

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~現実世界(十年後)~lorelei

こうなったら、このセネクトメア計画の全貌を確認するしかない。意を決した俺は、手に持っている資料を思い切ってめくった。

俊輔「...あれ?」

プロジェクトのメンバー名が書かれた次の紙には、何も書かれていなかった。次のページもめくってみたけど、真っ白な紙がひたすら重なり続けている。何だこれ?

試しに一枚だけ抜き取って、灯りにかざして透かしてみたり、目がくっつくくらい近くで見てみたけど、やっぱり何も見えない。ただの紙だ。

俺は一旦、手に持った紙を机の上に置いて腕組みをして目を閉じた。


まさかセネクトメア計画は、まだ始まったばかりで、細かい内容が決まっていないのだろうか。

いやでも仮にそうだったとしても、こんな数十枚もの白紙を資料として渡してくるか?明らかに不自然だ。

だとしたら...十年後の未来では、この紙を何とか見る方法があるのだろうか。セキュリティ上、誰かに見られたらまずい内容を、紙媒体でも閲覧者を制限する何かが施されているのかも。

でも下手に今いるメンバーたちに聞いたら不審がられそうなので、自分で調べてみるか。俺は自分のスマホをポケットから取り出した。


スマホのロックはかかっていないようだった。不用心だな。それとも、かかっていないようでかかっていて、本人も気づかない内にロック解除したのか?テクノロジーの進歩がどれくらいか分からないから、いちいち疑心暗鬼になる。

スマホのホーム画面には、グーグルっぽいアイコンがあったので、タップしてみる。この時代でも、調べたいことはネット検索が手早く確実だろう。

検索窓に「紙 白紙 見る方法」と入力して虫メガネマークをタップする。

しかし検索結果に表示されたのは、印刷しても白紙で出てくる不具合や、コピー用紙の販売ページばかりだった。そりゃそうだよなと思いつつ、手掛かりが途絶えてガッカリする。

俺は背もたれに体重をかけて、もう一度白い紙を手に取った。もしかしたら記世の印刷ミスか?でも十年後の未来で紙の資料っていうのも、少し違和感がある。どういうことだろう。


目を閉じてじっくり考えてみる。

大きくてふかふかなイスが心地良い。まるで高級ベッドだ。大きな会社だけあり、備品もクオリティが高い。学校のイスも、これだったら最高なのに。そしたら一時限目から終礼まで、毎日爆睡してみせる。

しかし未来に来たのは今更しょうがないとして、ちゃんと元の時代に戻れるのかな?

元々は貴ちゃんを生き返らせるために色々やり始めたから、自分自身がこんな目に合ったからには、貴ちゃんには無事に生き返ってもらわないと。

そういえば記世が、「セネクトメア計画が成功したら救世主になれる」って言ってたな。何だ救世主って?

この時代は、何か危機的な状況なのだろうか。だとしても、セネクトメアを人工的に作り出したところで、誰がどんな形で救われるのだろうか。ますます分からない。

そんなことをあれこれ考えていたら、意識が少しずつまどろんでいった。



ふと目を開けると、大きくて綺麗な月が視界に入ってきた。不気味なほど静かで、何の音も聞こえない。背中には少しひんやりした感覚がある。少し懐かしい感じだ。

ゆっくりと身体を起こすと、そこはホープライツのアジトの屋上だった。俺はいつの間にか眠ってしまったらしい。十年後の未来でも、眠るとセネクトメアに来るのか。

立ち上がって辺りを見渡す。まだリンカーになって一ヶ月も経っていないが、見慣れた風景が続いていて、いつも通り何も変わっていないように見える。セネクトメアでの時間の流れは、どうなっているんだろう。

少しボーッとして、とりあえずアジトに行くことにした。屋上から階下に続く階段を降りる。アジトの入り口は一見何もない場所に見えるが、メンバーが手をかざすと扉が出現する仕組みになっている。俺はいつも通り、何事もなくアジトに入った。


いきなり敵が襲ってきたらどうしようと思っていたけど、入り口からメインホールにかけての通路には誰もいなかった。そのまま正面のメインルームに向かう。

メインルームの扉の前に来ると、いつも通り自動で扉が左右にスライドする。中には数人の人影が見える。少し身構えていたが、襲われるような雰囲気はなかった。

一歩ずつ部屋の中に入り、中の様子が少しずつ明らかになる。

「あー!!しゅんちゃんだ!!」

俺に気づいた女性が大きな声で叫んだ。よく見るとスピカだった。その周りにいるメンバーたちも俺に注目する。中央のテーブル付近には、見知った顔が揃っていた。

エイミー「ちょっと!急にいなくなってどこ行ってたのよ!」

俊輔「え?急に?」

エイミーが少し怒ったような表情を浮かべている。俺が急にいなくなった?

ジェニファー「みんな心配してたんですわよ。結局キヨもいなくなるし、勝ったのか負けたのかよく分からないまま戦いが終わってしまって、不完全燃焼よ。」

ジェニファーが微笑みながら話しかけてきた。そういえば、キヨたちマイオールと戦ったっきり、ホープライツのメンバーとは会ってなかったな。

アライ「まぁとにかく無事で何よりだよ。とりあえず座ったら?」

アライはいつも通り、優しい大人の対応をしてくれる。俺はうながされるまま、中央テーブルの真ん中の席に座った。


俊輔「あ、貴ちゃんは?」

スピカ「貴ちゃんも行方不明だよ。ギブソンたちが探しに行ってるけど、動体反応がないみたい。ただ起きてるだけかもしれないから、現実世界で眠ればセネクトメアに来るはずだけど。」

俊輔「そうなんだ。」

そこでふと気づいた。何かみんな、全然変わってない。いつまでも若々しいとかいうレベルの話じゃなくて、本当に変わってない。今までと全く同じ見た目だ。何で?セネクトメアでは歳は取らないのか?


俊輔「みんな何で見た目変わってないの?十年経っても同じ見た目って不思議。」

俺がそう言うと、場が一気に沈黙した。

エイミー「十年経っても?」

俊輔「そう、十年経っても。」

エイミーが言葉を失っている。他のメンバーも言葉を発さない。

ジェニファー「そういう俊輔さんも、見た目が変わってないですわよ。」

俊輔「え?いや俺は割と老けたよ。鏡を見た時ちょっとショックだったもんw」

スピカ「いやいや変わってないよ。てか十年って何?マイオールとの戦いから、まだ二日しか経ってないよ。」

俊輔「え!!?二日だけ!?」

驚いた顔の俺と、不思議そうな顔をしたみんな、それぞれお互いの言ってることを不思議に思っているから、頭がこんがらがってしまう。


アライ「とりあえず整理しよう。俊輔君は、なぜ今が十年経った後だと思ったんだい?」

俊輔「それは、俺と貴ちゃんがコネクトを使って一緒に現実世界に戻ろうとしたら、なぜか十年後の未来に辿り着いちゃったんだよね。そこで眠ったらここに辿り着いたから、セネクトメアでも十年の時間が経ってると思ったんだ。」

我ながら分かりやすい説明だ。自分でも感心する。

ジェニファー「えー!二人もコネクトを使えたんですの!私とエイミーしか使えないと思ってたのに!ちょっと悔しいですわ。」

いつになくジェニファーがすねた顔をしている。てか、ツッコミどころそこ?

アライ「なるほどね。でも僕たちの感覚では、マイオールとの戦いから二日しか経っていないんだ。これはみんな同じだよ。」

その場にいる俺以外の全員が、「うんうん」と首を縦に振った。ってことは、早くも俺は元の時間軸に戻ってきたってこと?


続く。

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