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#16 赤ちゃんが”人”になる時

「幽霊っているの?」「運の正体とは?」などと思ったことは誰しもあるはず。そんな“目に見えないもの”にまつわる素朴な疑問や、仏教に関する知識を、SNS等で人気の僧侶、仁部(にべ)兄弟がゆるく解説。二人の掛け合いが楽しいインターネットラジオ「お寺ジオ」の配信内容をベースに、加筆・再構成してお届けします。

右:兄の前誠、左:弟の前叶

○前叶 みなさんを死に至らせる意外なもの~~~~ジャジャン!
第1位は「お餅」でございます〜〜!!!

●前誠 !? まぁのどに詰まらせたりとかあるけどさ、ほかにもあるだろうし、いきなり何?

○前叶 実は危険な食べ物だよな〜って思って(笑)。
で、お餅といえば、お檀家さんに「孫がもうすぐ1歳になるから”一升餅”について教えてほしい」っていわれたよ。

●前誠 なるほど、そういう流れね(笑)。でも、俺答えられないかも。自分がやった記憶もないし。ひたすら「重っ!」みたいなことでしょ。記憶ないわー。

○前叶 1歳だしね。俺も記憶はないよ(笑)厳密にいうと、いつやるかっていうのは決まってないんだけど。

●前誠 そもそも一升餅ってなんなの?

○前叶 「一升」って、お米を升で数える単位だね。それと、そこに「一生」、生涯その子が食べ物に困りませんようにという願いが込められている。でも本来は「いっしょう」より、なぜ「もち」なのかっていうのが大事。お餅っていうのは日本の宗教的な文化というか、主に神道からの流れが強いんだけど、お餅は神さまの魂が宿るもの、お姿そのものって考えられていて…

●前誠 ほうほう。

○前叶 なんでお餅が神さまなのかっていうと、「~を以って」っていう時の「以」って「もち」って読むじゃん。我々もこの功徳を以てとか言うよね。この「以」という字はすごく大事で。

●前誠 「もちて」とか「もって」って読むね。ってダジャレ??(笑)

○前叶 少し話は変わって、お札とかで「奉る」っていう字のところに4つちょんちょんって点が書いてあったりするんだけど…。

●前誠 日蓮宗のお札にはほぼほぼ書いてあるね。

○前叶 あれは「以字点」といって。「以」の字を表すように点が打たれてる。この点は火伝(かでん)、水伝(すいでん)と言われたり、4つの点が四天王を表していると言われたり、色々役目があるわけ。

神さまは「火水さま」

○前叶 「火」と「水」は「火水=かみ」であり、これこそが元来地球にある自然の力、すなわち「神さま」に通じていくわけなんだよね。

●前誠 それでお札にも書いてあるわけか。

○前叶 神さまっていうのは「火水」と書いて「かみ」っていう風に、人間の生活の中でなくてはならないもの。
話を戻すと火水(かみ)を表す火伝、水伝は「以」の字をもって表しているんだけども、そこからお以ち、転じて食べ物のお餅は神さまが宿るものにしましょう、お正月に新しく神さまにきてもらおうということでお餅をお祀りするようになったんだよね。

●前誠 それで鏡餅とか飾るわけだ。

○前叶 お餅が神さまになっていった経緯でいうと、伏見稲荷にも言い伝えがあって。秦伊侶具(はたのいろぐ)という豪族が、その年取れたお米でお餅をつくって弓矢の的にしてちょっと悪ふざけしていたところ、弓矢が餅に当たると、その餅がみるみるうちに鳥になって飛んで行った。

●前誠 姿を変えてね。

○前叶 うん。秦さんはこれはまずいぞ、神さまだ追いかけろって家臣たちと追いかけたのね。で、着陸した先が伏見稲荷のお山だったと。諸説あるけれど、そこから山自体がご神体そのものになって、稲がたくさんなって五穀豊穣になったから、稲が生るで伏見稲荷になったっていう経緯なんかがあって、お餅も神格化されている。

●前誠 ないがしろにしてはいけないんだね。

○前叶 神さまのお身体だからということで刃物を入れてはいけないともいわれている。

●前誠 だから、鏡餅をいただく鏡開きでは、お餅を切らずにたたいて割るんだね。

「天地人」はたんに万物のことではない

○前叶 で、話は戻るんだけど、なんで一升餅を子どもが背負うのかっていうと、赤ちゃんってずっと寝たきりじゃん。

●前誠 そうだね、ある程度の年齢、1歳前後になると立って歩いてっていうのができるようになるかな。

○前叶 地面から立つっていうのは地に反発すると同時に天に近づくこと。しかも地面っていうのは人間ではどうにもできないような強いエネルギーを持つもの。そんなに強いエネルギーに対して立ち上がるっていうのはすごいことなわけ。

●前誠 一人前になったみたいなことね。その強い力に抗えるくらいに。

○前叶 地面に対して立って、天に向かう姿勢ができて「天地人」となり、初めて赤ちゃんから人になるんだよね。それをお祝いする儀式でもあるし、本当にそれができるのかって試す儀式でもあって、そういう意味もあって一升餅を背負うと。そういう習わしがあるんです。

●前誠 そう考えると…

○前叶 けっこうお餅の見方も変わるでしょ?

●前誠 そうだね。そして、今回は一升餅を紹介したけど安産祈願や七五三なんかも考えるとお寺っていうのは人が生まれるまで、そして生まれてから人が亡くなるまで、そして亡くなった後も一生を通してお付き合いできる場所だと改めて確認できたかな。美味しいお餅が長~く伸びるように、皆さまとお寺とのお付き合いも末永~くなりますように。

○前叶 合掌。

仁部 前誠(にべ・ぜんじょう)
1988年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。2012年より日蓮宗宗務院に奉職。2016年、日蓮宗加行所初行成満。2020年よりRadiotalkにて、弟の前叶氏とともに「midnight temple radio お寺ジオ」を配信。僧侶としてのモットーは、「法華経の話はほとんどしませんが、すべては法華経の話です」。 最近では、『あなたは尊い 残念な世界を肯定する8つの物語』(漫画・やじまけんじ/監修・佐渡島庸平×日蓮宗/徳間書店)制作プロジェクトに参加した。

仁部 前叶(にべ・ぜんきょう)
1991年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。さいたま浦和地区保護司。2015年、日蓮宗加行所初行成満。2020年、仏教死生観研究会「死の体験旅行」講師を務める。同年、上原寺別院「祈誓結社」を設立。”ほとけ様との架け橋“であることを目指し、命の強さと有り難さについて伝えるべく活動している。
https://twitter.com/6SYAKU_HOUSHI