ワタクシ流業界絵コンテ#14

 TVシリーズ『赤ずきんチャチャ』は計九本(うち一本は絵コンテのみ)やりました。完全な出向、という形ではありませんでしたが、〝外〟の空気を吸うことが出来たのは、僕にとっては大きな転機になりました。色々な人とも出会いました。それまで僕は同業者の仕事ぶり、というものにはあまり関心がありませんでした。思い上がったことを書くならば、ライバルだと僕が認めるような人間が周囲にいなかったからです。面白いなあ、と思うようなフィルムを作られる方たちも当然いるのですが、それは自分の志向とは全く違うジャンルであったりするので、単純に観客モードで「ああ、スゴイねぇ」と見ているだけでした。自分のやっている作品で、自分と同様な問題意識をもって取り組んでいる人間はまずいない、とさえ思っていたのです。しかし、『チャチャ』には二人もいたのです。その人達とは――

 桜井弘明さん
 大地丙太郎さん

 桜井さんは独特の感覚とテンポを持っている人で、今はNHK衛星第二で『だぁ!だぁ!だぁ!』という少女アニメの監督をしています。アップテンポの激しいギャグが得意の大地さんは、現在北島三郎の主題歌でおなじみの『おじゃる丸』をまったりと監督しています。はっきり言ってみんな今では大活躍です。そんな彼らが『赤ずきんチャチャ』では各話演出として参加していました。僕も含めて三人に共通していたのは、ギャグの型をそれぞれ持っていたことと、原作の持ち味をなるべくアニメにも反映させようとしていたこと、そして更にはセリフの間、音楽の入れ方刻み方を含めた〝音響〟全般へのこだわりです。何に限らず、ギャグというのは役者(キャラクター)の芝居(動き)だけではなく、たたずまいや場の雰囲気などがあって初めて面白くなるはずなのですが、どうしたわけか、従来のアニメはその辺がチグハグなものが多く、はっきり言って面白くありませんでした。それは何故かというと、作画の現場と音響の現場がバラバラで、ややもすれば作画はとにかくフィルムを仕上げればいい、あとは役者の芝居と音楽で面白くすれば…なんて流れのモノが多かったのです。スケジュールが悪い作品はとにかくアフレコ、ダビングに絵(フィルム)を間に合わせなければならないので、音響作業はお任せになりがちです。いくら原画のチェックや演出処理が上手くなっても、音響の人と満足にコミュニケーションを取れなくては最終的に自分の望むようなフィルムにはならない筈なのに……僕が演出に成り立てのときにプロデューサー氏が言いました。
「アフレコとダビングは見てるだけでイイから。音響の人の邪魔にならないようにね」
 そりゃ違うだろ、オイ、というところで続きは次回へ──

NHK出版『放送文化』2001年5月号掲載


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)