見出し画像

脚本の書き方(サトウの場合)

先日、『脚本の実際(アニメの場合)』に質問のコメントがありました。

>脚本を書く上でどのようなことを意識して書かれていますか?

コメントにはコメントしてお返しするのが本来ですが、僕も新作の準備中でオリジナルな脚本を書いている最中です。あらためて自分の脚本の書き方というものを振り返るいい機会かもしれない、というわけで記事として掲載しようと思います。

僕はアニメーター(動画)出身で、文芸の仕事として企画書などは書いたことはありますが、専門的な脚本の書き方を学んだことはありませんでした。初めてTVアニメの脚本を書いたのは監督作『機動戦艦ナデシコ』の「第23話『故郷』と呼べる場所」ですが、この時は絵コンテを想定して逆算して脚本を書いていく、という方法をとりました。これはTVシリーズもずいぶん進み、キャラのノリや演出のテンポというものが分かっていたので出来た方法です。当然「それ字コンテ!」「ズルい!」というツッコミもありましたが(笑)、絵コンテも演出も素晴らしく、フィルムの上がりも好評だったため、引き続き脚本を書かせていただくきっかけになりました。脚本家としても思い出深い話数です。

※字コンテ…漫画ではプロットとネームの間の工程を言いますが、この場合はほぼ絵のない絵コンテのような脚本を指します。

自分の書き方が定まったのは、「学園戦記ムリョウ」の頃でしょうか。原作を考え、脚本監督を担当したのが一番大きかったのではないかと思います。『ムリョウ』は連続ドラマなので、一話ごとにオチをつけつつ次の話数、更には次の展開への伏線を張ったりと色々仕込みつつ展開する必要があります。大枠としてのストーリーを考えつつ、シリーズの構成を考え、まとまってきたところを見計らっていよいよ第1話の脚本を書くことになります。

まずはお話を展開していくなかで、絵的な見どころであるとかキャラクターの魅力をどう出していくか…プロットの段階でまずはどういうシーンを入れていくかを考え、シーンごとにそれを紙に書いて壁なりホワイトボードなりに貼っていきます。それらを順番に並べて話しの流れを確認しつつ、シーンの切り替わりがどんな感じが想像します。同じような室内のシーンが続くと退屈そうですし、絵的な工夫出来るかどうか…逆にあえて同じようなシチュエーションを並べることもありますが、それは狙いがあるからこそ。

そんな作業をしつつ、そのシーンに入れたいアイディアやセリフを付箋に書いて貼り付けます。言わせたいセリフ、見せたいガジェット、ペタペタ貼っていくとハリネズミのようになっていきますが気にしないで続けます。これって要するに箱書きを可視化したものですね。壁に貼ったハリネズミの群れを近寄ったり距離を置いて眺めたり。そして紙の順番を入れ替えたり削ったり、付箋を別の紙に貼り直したり…そんなこんなでイイ感じになった頃、あらためてパソコン上で箱書きを作ります。

実際やるとなると部屋が紙クズだらけになって大変なことになりますが、そういう考え方でストーリーを考えていくとプロットから直接脚本に落とし込む事が出来るようになるし、行き詰まったらまたハリネズミに戻ればいい。要は全体の流れと個々のシーンの描写のバランスと、自分なりに盛り込みたいテーマをどのように仕込んでいくか立体的に見つめる視点を持つ努力をするということでしょうか。

さて、ト書きの情報量に悩んでいるとコメントを寄せてくれた方は書かれていました。

テンポよく読めるト書きの量とは?

思っているイメージが読んでいる人にも伝わるいい塩梅の脚本とは?

こればかりは正解はありませんが、先人たちの書いた脚本を読むことをお勧めします。更にはそれを映像化したものをあらためて鑑賞する、アニメならば絵コンテを読んでみるというのもいいかもしれません。実写の脚本はアニメに比べるとト書きの量が少ないのに驚かれるかもしれません。アニメの場合は脚本の段階で美術やメカ、小道具の設定作業に入ることもあるのでより具体的なト書きを要求されるのが最近の傾向です。だから必然的に脚本の量が多くなる。『脚本の実際』ではアニメは200字詰め原稿用紙80枚が基準と書きましたが、今は下手をすると90枚もかかってしまう場合もあるでしょう。

監督やプロデューサーがト書きを増やしてくれ、という要望を出す場合もあるかもしれないのでホント大変です。そのくせ絵コンテで話やキャラクターを変えてきて構成が滅茶苦茶になったりすると更に大変。過去に二回ほどそんな事がありましたが、まあなかなかそんな事は起きないので(笑)、要らぬ心配をしないでまずは沢山書いたあと、ちょっと時間を置いてから自分で読み直す習慣を作ると色々見えると思います。そのあと人に読んでもらうというのが一番ですが。

ただ、気をつけないといけないのは、脚本は「寄り添い過ぎずに書く」のが大事ということ。心情も描写も基本離れた所から書かなければならない。その書かれたものに「距離」を想定してアプローチをするのは演出家の仕事です。文章で人を感動させるのは小説ですが、脚本は端的な言葉の積み重ねでコンテマンや演出家のイマジネーションをかき立てるものであるべきです。そうするとおのずから書き込むト書きの量も決まってくるのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、過去の作品の脚本と実際の映像を見比べてみましょう。当然シナリオから変更された箇所も多々あるでしょうが、全体の傾向が見えてくるはずです。

この記事が参加している募集

習慣にしていること

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)