どぶ色の青春と、

夏が来る予感がしている。田畑に囲まれたぼろっちいアパートのベランダでは夜になると蛙の声が厭と言うほど鼓膜をふるわせてくる。

煙草の煙に巻かれてなんとなく歳だけを重ねてしまっていることを考えざるを得なくなってしまった。
なんとなく義務教育を終えてなんとなく進学して、別に何をしたいとか考えてなくて全てが漠然としていた。目に映る未来はからからに乾いていた。

あの時にあたる「未来」という場所にいるけれど辺りに潤いは無い。すぐに引っこ抜けてしまうような小さな雑草が点々とあるだけだ。
悲しくはない、不安を抱くほど何かを考えているわけではないのだけれど。

空っぽの自分を見つめて項垂れてぼうっと音楽を聴いていた。
彼らは青春を歌っていた。私が知り得ないきらきらとしたそれに嫉妬してしまいそうだった。

私の知る青春はもっと変な色で雨がもたらす空気みたいな匂いがしてざらざらしている。
私を友達だと思ってくれるような人とは出会えず、恋人とは理解し合えず、ただただ人間性を否定してくるようなあの視線たち。ひとりでいることはおかしいことで、誰かにあわせていないと地位を保てない。
だから私には安息地どころか立つことが許された場所すらなかった。一人ふわふわ浮いていて酸素が薄くてまるで真っ暗な宇宙を迷う物体Xだ。

物体Xの拠り所は音楽だった。
音楽を聴いている時だけはひとりでいても、クラスで浮いていても認められたような気がした。
それがとても嬉しくて幸せだった。

誰しもが美しくも儚い青春を手に入れられるわけではない。それでもどこかには自分に優しくしてくれる場所が必ずある。その青春が思った通りのものじゃなくても大丈夫。
いつか全部、全部が大丈夫になるから。

誰とも共感できない青ざめた春を握り潰して、

私は目線だけを前にして下を向いて歩く。



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