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「イラストが、構造が思いつかん!」グラフィックレコーディングで咄嗟にイメージが浮かばない時への準備と対応

「やばい!描き方思いつかない!いや、描きたいものはある!けど話は進むし、残り時間は減っていく…!!!」

グラフィックレコーディング、グラフィックファシリテーションをしていて、そんな経験ありませんか?

知人に「咄嗟にイメージが浮かばない時、どうしている?」と聞かれたので、その内容をもとにnoteを書いてみました。
まだまだ精進中の身ですが、同じような経験をしている方の参考になれば幸いです。


改めましてこんにちは。関 美穂子@sekimihokoです。
ビジュアルファシリテーター/グラフィックレコーダーとして活動して7年目のフリーランスです。

主に一対一、会議やイベントなどで、その場で話の内容をリアルタイムに視覚化することで話を整理したり、促したりする仕事をしています。

■グラフィックレコーディングとは
「人々の対話や議論の内容を聞き分け整理しながら、リアルタイムでグラフィックに変換し、可視化する」記録手法

清水淳子「議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書」

自己紹介や活動詳細はこちらをご覧ください。

ではさっそく、グラフィックレコーディング(以下、グラフィックファシリテーション含む)で咄嗟にイメージが浮かばない時への準備と対応について、「私はこうしてるよ」をご紹介します。
皆さんの方法も、ぜひ聞いてみたいです〜

【1】イラスト・アイコン(具象・抽象)が思いつかん! 

まずは単語レベルのイラスト、アイコンです。

働き方を見直すことで自分の生き方が見えてくる。出産・子育てに追われ「自分」を忘れそうだった私の可視カフェ体験レポート

①事前の準備

テーマや話題をみて、事前に話題で頻出しそうなものは何度か描いて手慣らししておきます。「ビジュアルボキャブラリーを増やす」という表現をする方もいます。
具体的なイラストは、特にカギになりそうなものを中心に練習しておくのがおすすめです。
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◼︎ちなみに
どう描いたら良いか、インターネットで参考事例を調べる時は「診察室 イラスト」「運用 アイコン」など添えて調べると、描きやすい形で出てきます。
(※トレースにならないように、自分の手で描きましょう)
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自動車メーカーの社内会議で「なんだか走らなさそうな車のような物体」は描けないし、医療従事者の対話の場で「今は廃止されつつあるナースキャップ」は描けません。

最低限、話す人が見て違和感のない、対話や議論の邪魔にならないイラストを描く必要があります。
そしてそれを越えて、話す人が発想のヒントになったり、大事な共通認識となるイラストが求められているとも感じます。

文章の書き方についての本でも、細部のレアリティの重要性について説明があります。

“面倒くさい細部”の描写によって得られたリアリティは、読者の理解を促し、文章の説得力を強化する

20歳の自分に受けさせたい文章講義(古賀史健)

また、抽象的なイメージのアイコンの事前練習のポイントは「自分の思っているものが、今回の聞き手にとって通じるものか」。
そこを意識して準備しておくと、「描けてよかった!手に覚えさせててよかった!」と本番に活きる準備になるんじゃないかと思います。

伝わる、が一番だいじ。

アイコンは意味を伝えることが、その第一の役割です。
アイコンとは、物事や行動を視覚的に表現するものと定義されています。その物事や行動がユーザーにとって分かりにくければ、アイコンは実用性を失ってしまい、よく分からない目障りなものとなってしまうでしょう。

ユーザーが理解しやすいアイコンにするための6つのルール/UXMILK

描き始めて7年間で「この表現はこの目的で使えるな」という自分の引き出しの一番上に置いておく「スタメン」のようなものが揃っていっている感覚がします。

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◼︎ちなみに
日本の、世界のグラフィックレコーダー含めた素晴らしいvisual practitionerの皆さんの表現もとても参考になります。
私も特に「推しメン」の皆さまの制作物はリスペクトの気持ちを忘れずに、真似して学んでいます。
上手になりたい、という方は「推しメン」作りましょう、ぜひ!
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と、ここまで事前準備の話をしましたが、そうやって事前に手に覚えさせたことは、だいたい9割は使いません。
ただ、この準備の過程で結構な量の事前知識のインプットも行えるので、本番で話の理解がスムーズになる素晴らしい副次的効果が得られます。いや、というより、むしろそちらが主目的でした。

ここまで事前準備の話でしたが、次は本番で「思いつかん!」となった時の対応です。

②その場の対応

描きながら調べられる環境
手元の端末、スマートフォンやパソコンなどでこそっと調べる。
調べる時は、さきほどの「イラスト」「アイコン」を添える方法で検索するのがおすすめです。


描きながら調べられない環境
(例:ファシリテーションをしていたり、話が速かったり、ステージ上で描いたり、描く様子が撮影されていたりなど振る舞いも大事な要素のときなど)
まずはなんとかそれっぽく仮で描いて後から精緻化します。頑張る。

ここまで単語レベルの「アイコン・イラスト」のお話でしたが、次は数行の文章程度の「概念イメージ」です。

【2】概念イメージが思いつかん!

オンライン配信イベントのアーカイブの興味の入り口となり、実施の価値を広げるグラフィックレコーディング/パパママサミット2021

本番に見聞きした話で概念をつかめたのに、咄嗟にそれを表現するイメージが浮かばない。
そんな時はだいたいどちらかで対応しています。

①既に言葉が見えているならいったん文字で置いて、あとから戻ってゆっくり描く。
②まだ言葉が見えてないなら、とりあえず描けるものを描く。色味や質感、形など、言語化を挟まず直接視覚言語から入って、それを土台に言葉を置くときもある。

ここまで「単語レベルのイラスト、アイコン」「数行の文章レベルの概念」ときました。
最後に「一つの文章レベルの、紙を一枚の面と捉えた全体構造」のお話です。

【3】全体の構造が思いつかん!

①事前準備

事前に構造をデザインしておくこともある

特にプロとして報酬をいただくお仕事の時は、「会の目的、グラフィックレコーディングに期待する役割」が明確です。もしくはヒアリングを重ねて明確になっていきます。
(貴重なご予算のなかから、グラフィックレコーディングに費用を出してくださるので、そこには必ず何かしらの期待があります。)

そうした目的や期待から、グラフィックレコーディングを目的達成の手段として活用できるものにするために、あらかじめ事前に構造をデザインすることもあります。

議論の焦点と理解を揃え、創造的・建設的な場を支援するビジュアルファシリテーション/ 組織再考計画(Re-Thinking Organizationsプロジェクト)

事前に構造を準備していても、本番で捨てることも多い
ただ、事前に準備した構造が使えるかは、その時の内容次第。
特に自由な進行の場合は途中で準備してきた構造を捨てて、その場で構造を再構築することも多いです。

専門家同士の対談の土台となるグラフィックレコーディング/「実践 シナリオ・プランニング」出版記念対談イベント

何を捨てて、何を選び、どう描くか。
瞬時の判断基準となるのは、「会の目的、グラフィックレコーディングに期待する役割」です。

そこをしっかり把握しておかないと、話の「幹」と「枝葉」が決められないし、描くもの、描かないものが選べない。
このお仕事は事前準備が8割だな、といつも感じています。

「3人の数学者に立方体をみせて「これはなにか」と尋ねると、幾何学者は「立方体です」と答え、グラフ理論学者は「12の辺で結ばれた8つの点です」と答え、トポロジー(位幾何学者)の学者は「球です」と答えた」

これは、見る関心(つまり学問の目的)によって「枝葉」と「本質」 がすべて異なることを示しており、これによって単純化のやり方も異なるということである。

細谷功「アナロジー 思考」

構造をデザインすることにまつわる危険性
場の目的達成のサポートとして描く、といっても話し手の一番大切にしている想い、特に文脈、ナラティヴを損なってまで無理やり捻じ曲げるのは倫理に反するので避ける必要があります。

話し手の想いを大切に、そして目的を達成をサポートすること。
この両立が時にハードな時もありますが、そこがこの仕事の踏ん張りどころ、諦めたらいかんところだと思って矜持を持って取り組んでいます。

②立ち現れてくる構造

話を聞いてまだ構造が浮かばない時は、だいたい全体でのメインの文脈を自分が捉えられていない時、または話されていない時。

そんな時はあとから構造を表現できるようにちょっと余白を多めにつくりつつ、まずは必要な情報を聞き分け、内容を「置いて」いきます。

必要な情報を聞き分け置いていきつつ、一番大きな文脈の「全体を通してこの人が一番言いたいこと」が立ち現れるのをじっくり待ちます。

待っている時は、頭の中はこんな感じ。

  • すぐ描かない(脳内に一時保存、または手元でメモ)

  • いったん仮置きする

  • 手を動かしながら考える

仮置きしたら、だんだん構造が見えてくることがあります。

見えてきたら、

  • 意味の似ているものを近くに、似ていないものを遠くに書く

  • 関係性が明らかになったら、矢印や線といった意味の表現でつなげる。全体に接続詞をひいていく

  • 重要なキーワードを、意味の種類やレイヤーごとに描き方を揃えて強調する

ちなみに描き始めて7年目、なんとなく、自分なりのルールに基づいて描いていることも分かってきました。ここは要研究。

  • 右上が未来、左下が過去や現在

  • 上が解説、下が事例

  • 上が抽象、下が具体

  • 対比の話なら対角線上

  • プロセスなら一つの線の上に

  • 主役が下や真ん中、外的要因は外 


▼実際の手を動かしながら全体の構造を探っている制作シーンです

ちなみに、後半は時間との勝負
リアルタイムのグラフィックレコーディングは、必要なタイミングまでに必要なものを描き終えて、時間通りに場にフィードバックする必要があります。

ただメインの文脈が最後の最後あたりに出てくるときも多いので、後半はバタバタ。
終わりの数分で一気に構造を作れるように、時間を取っておく必要がある場合があります。

その時は大事な要素の描き漏れを作らないように、構造化の時間を確保しつつ残り時間も気にする必要があります。

ちなみに、構造がないときもある
「関ちゃんのグラレコ、話がまとまってない時はまとまっていないように描かれるよね〜」
とても嬉しい言葉です。

構造化はとてもパワフルですが、必須ではありません。
しない方がいい時もあります。
構造がない話を無理やり構造化するのは、「私そんな話、してないんだけど…」と、話し手を傷つけます。

決して「すごいものを描く」が目的にならないよう、驕らず昂らず。
場に、話し手に、真摯に誠実に、謙虚にあり続けたいです。

おわりに

ここまで「グラフィックレコーディングで咄嗟にイメージが浮かばない時への準備と対応」を書いてきました。

いやぁ、偉そうに書きましたが、言うは易く行うは難し。日々精進の毎日です。
同業のみなさん、頑張ってまいりましょうね。

また別途、今回の内容の前提条件や補足などをぼちぼち書いていきますので、よければまたお付き合いくださいませ。

では、また!
関でした。

読んでくださってありがとうございます。いただいたサポートは、インプットに活用します。