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4 道具を変えて考える

考えに行きづまったときは、考える道具を変えてみます。ここでいう道具とは、筆記用具のこと。アイデアやプランを具体的に目に見えるものにするには、パソコンやボールペン・万年筆・鉛筆が必要ですね。

パソコンで企画書や原稿を書いていて、集中力が低下してきたかなと思うと、紙と鉛筆に変えてみるのも手です。鉛筆は不思議な筆記用具。Bよりも柔らかいものであれば、紙の上を滑りやすく、いたずらがきをしているうちに、ふっと考えが浮かんだりします。文字よりも、絵とか図を描いてみるといいでしょう。いま考えていることを図示すると、どうなるのかといったことを、あまり、自分を追い込まずに、もわっと考えてみるのです。

例えば、誰もが知っている「マズローの欲求段階」について考えてみましょうか。これは人間の欲求を五段階に分けたもので、その段階とは、色々な訳し方がありますが、「生理的欲求」「安全の欲求」「親和(所属愛)の欲求」「自我(自尊)の欲求」「自己実現の欲求」。正三角形の下から順に段階を上がっていくという流れで図示することができます。

あるとき、紙の上に三角形を描いているとき、この図のことを思い出しました。それで鉛筆で五段階の欲求を書き込んでみたのですが、何かしっくりきません。いまの時代、ほんとうに頂点に「自己実現の欲求」が来るのだろうか、それよりも、三角形の下のほうに位置する「生理的欲求」「安全の欲求」のほうが上に来るのでないだろうか――そんな考えが浮かんできたのです。地球環境の問題、食の安全や水資源への関心、いまなら感染症への恐れなどを考えると、あながし間違いでもなさそうです。

そこで、正三角形の頂点の上に、もう一つ正三角形を重ねてみたのです。そう、クリスマスツリーの模式図のようですね。「自己実現の段階」を突き抜けようとすると、そこに高次な「生理的欲求」と「安全欲求の段階」が表れて来るという図式。果てのない「自分探し」に明け暮れるよりも、もっと生き物として健康的な生活を送りたいといった気持ちのほうが強くなっているのでないか。そうした反省の念が地球大で強まっているのではないか。そうした考えも、自分の中に見えてきます。

これが当たっているかどうかは分かりませんが、ともあれ、そんなふうに考えがまとまっていったのも、紙と鉛筆のなせるわざ。資料作りでは、クロッキーに使われるコンテを使うと、鉛筆よりも描線が太く、かつ、かすれなども混じるので情感がこもります。また、コンテを指にはさんで紙に向かうと、考えていることを立体的な図で描きたくなるはずです。円より球、四角形より立面体の組み合わせによって、問題を解きほぐそうとしている自分を発見します。

濃い鉛筆やコンテで文字を書いてみましょうか。字画の多い漢字は描きにくいので、どうしても簡単な漢字、アルファベット、ひらがな、カタカナの単語になります。思考が複雑さの泥濘に落ち込むことなく、シンプルになります。こうして、わかりやすい言葉でコンセプトを表してみると、とても迫力がでるのですね。企画書として力のあるメッセージが生み出されるのです。


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