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あの頃の自分に言いたい一言

毎週土曜日の朝、大好きな長靴を履いて、お気に入りの三輪車で遠出するのが楽しみだった。まだ幼稚園児だった僕、父と兄貴の3人。自転車で30分、電車で2駅行ったところで、貨物列車の入れ替え作業が行われていた。それを見るためだけに、毎週土曜日は早起きしてペダルを漕いだ。

家中にプラレールを敷いたり、幼稚園児ながらNゲージにまで手を出すくらい、小さい頃から電車が好きだった。そういえば切符も毎回持ち帰っていたし、電車に乗る時はいつも1番前で、運転席を眺めていた。やっぱり、大きな電気機関車を運転する運転手さんがカッコよかったし、指差し確認をよく真似していた。今でもあの頃の憧れの強さを覚えている。

いつからか、将来の夢は仮面ライダーから電車の運転手さんになっていた。そんなある日、いつも通り3人で貨物列車を眺めていた。すると、「貨車の上に乗ってみる?」と、駅員さんが貨車の上に乗せてくれた。きっと、電車そのものよりも鉄道に関する仕事に従事する人に惹かれる様になったのは、それから。

新幹線のホームにいけば、海外からも賞賛される清掃員に憧れ、車両基地の公開があれば、電車を直す人に憧れ、切符をもらうときに優しくしてもらった駅員さんに惹かれ。子供だった自分に優しく、多くのサービスをしてくれた鉄道従事者に魅かれた。

2021年の2月。大学生になって地元を離れた僕は、最寄り駅に貼ってあった「駅員アルバイト募集」のポスターの前で目を丸くしていた。アルバイトはしたことなかったが、迷う暇も無く面接を受けた。

「僕も電車を動かす1人になりたいです」

小さい頃から思っていた言葉を、初めて口に出した瞬間だった。そして採用された僕は、駅員として働くことになった。ずっと憧れていた夢が叶ったは良いものの、仕事内容は思った以上に大変だった。聞いたことない駅名も沢山あった。電車が遅れれば理不尽に怒られた。早起きしたり終電を見送ったり、憧れの裏にある大変さを思い知らされた。

あるとき、全身が電車のグッズだらけの小さな子が改札に来た。処理をした後に、配布できる電車のグッズをサービスで渡した。すると、その子は凄く大きな声で「ありがとうございます!!」と高らかに言い、あからさまに喜んだ。

あの頃の僕を見ているようだった。そして大きな夢が1つ叶ったことを実感した瞬間でもあった。このアルバイトのおかげで、家族と自分の関係について、人の出会いと別れについて、恋、親友、大人についてと様々な、考えを改めることができた。自分なりの答えもある程度まとめることができた。

今の自分には新しい夢がある。
叶う気しかしない。
大きな夢を叶えたから。
あの頃の自分に伝えたい。

「その夢を持ち続けて」

(終


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