重みを伝える――体内の流れを可視化する
ニュートンのゆりかご、という実験がある。五つくらいの連なった玉の、一つをもちあげてパチンと落とすと、反対側の一つだけが跳ね上がる。
ちょっと不思議な実験である。
普段は一つの玉だけど、これを二個でやったり、三個でやったりするとどうなるか。もしくは両側から一つずつ持ち上げるとどうなるか。映像を見ると、すごくおもしろい。
じつは古流の動きでも、達人は同じことをしている。自分の身体のなかで、運動量を発生させ、端に移動させて、放出する。外側からは移動の過程が見えない。でもたしかに、移動させている。
発頸という、業がある。
中国の古流の動きだ。ひとつの例だと、業をかける側は、相手の胸に手を置く。体内で運動量を発生させて、練り上げて移動させ、腕から相手に伝える。すると相手は、1mほどふっとぶ。
このとき術者には、練度が上がれば上がるほど、大きな動きはいらなくなる。最終的には、ほんの少しの動作で相手をふきとばすことができる。
これは非現実的な業ではない。
古流の原理である「重みの操作」を完璧にマスターしているだけだ。自分のなかで運動量(=重み)を発生させる。重みを移動させて、手から相手に伝える。たったそれだけ。しかし、これに習熟するには、膨大な時間が必要になる。
じつは誰でも、同じことをやっている。
車の後輪がぬかるみに突っ込んで、空転してしまうとする。「しゃーねーな」と、ぼくらは車を降りて、後ろから押す。後ろ膝を伸ばして、足先から膝、腰、胸を一直線にして、胸のそばに手を置いて、「いっせーの」って言いながら押す。すると1t強もある車が、数人いれば簡単に動く。
この体勢は、つまり、重みを車に伝えるのに適した姿勢である。地面から腰を通って、腕から力を伝える。「腰で押せ」と言われるのは、重みを伝えやすいからである。
車を押す動作から、予備動作や準備時間を最低限まで切り詰めた業が、発頸なのである。人間相手にやれば、吹き飛ぶのも無理はない。
サポート金額よりも、サポートメッセージがありがたいんだと気づきました。 読んでいただいて、ありがとうございました。