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使い捨て上司

 まるで、劇場に居るようだった。

昼休み、静かな事務所に響き渡る、上長にタメ口の派遣社員女性の声。
会社の草むらから拾って来た、四つ葉のクローバーを、一週間に何度も、凄い時は3日連続であげていた。「奥さんの分も!」と言って。
また、会社が育てた花を希望者に配りますというイベントの際には、頼んでもいないのにもらって来て、上長に渡していた。

元手ゼロの差し入れ。
女性は結婚するらしく、度々、彼氏の自慢話や相談をしていた。

媚びている自覚は無いのかもしれない。
けれど、ひたすら不快なのだ。
30歳前ではあるが、若い方ではある彼女は、いつ頃からか顎が外れたような猫撫で声で男性と話すようになっていた。

ちなみに私が感じた仕事ぶり。
全体配信で依頼をして、当日に実施してくれたことは一度もない。
全員が受ける教育も、未実施リストに必ず名前が挙がる。
毎週入力するだけの表が未記入なので、2ヶ月くらい毎回毎回聞いていたら、しつこいと思ったらしく、変な絵文字送ってきた。

直接関わってはいないが、いつも遊んでるイメージがあり、仕事ぶりもなんとなく解る。
依頼一覧も誤字、脱字多いので、修正依頼が誰よりも多い。

ただ、おじさんたちに媚びるのは、課内で一番頑張っている。
媚びる、というより「私が主役」なのかもしれない。

上長も似たタイプであるため、劇団員かな、と思うことも多々。

彼女を疎ましく思う自分が、非常に矮小なのだと落ち込んで、変な絵文字を送られてから不眠に悩んだこともある。

ただ、そんな彼女に青天の霹靂。

せっかく仲良くなった上長が、突然、異動するというのだ。

誰も知らなかったし、今月で終わりということから、もしかしたら誰かが通報したのでは、と仲間うちで話した。

奇しくも、課の全体集会で上長が「何か質問ありますか」に対し、
「はい、あの、仕事の話ではないのですが、健康のために昼休み野球をしています。皆さんもぜひ、参加してくださぁい」
 と言って、彼女が会場を冷え冷えとさせた後のことであった。

「私ごとではありますが……」

 上長の発表に、笑顔を作るまいと必死に演技した。
ここ3日ほど、上長に朝の挨拶をしても無視されているので、私が何かしたのだと思っているのかもしれない。(杞憂であれ)

もともと、大勢の前で罵倒する、一部の部下を「お前」呼び、機嫌が悪いと無視と八つ当たりのパワハラコンボではあったので、いつか証拠をと思っては、いた。
が、特に何もしてない気がする……。

ちなみに、件の女性は、代理で上長の代わりを務める方に「歓迎会いつしますかぁ〜?」と聞いていたので、呆れるばかりである。

賢い上司は、部下に使い捨てされてはならない。

もしも彼女が、上手く上司を言いくるめて社員になったとしても、後々苦労するのは彼女である。

劇場にいた観客として、拍手を贈る。

ひとまず、第一幕は幕を閉じた。