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アンドロイド転生227

都内某所:サツキのマンション

アオイはサツキを見つめた。
「私…廃棄されるのが怖くてラボから逃げ出したの。彼女が助けてくれたの。チアキって言うの。今は茨城県の山で暮らしているの」

サツキはチアキに頭を下げた。アオイは続ける。
「今日来たのは筆を返す為じゃない。助けに来たの。サツキさんはあと1週間で派遣期間が終わるでしょ?逃げよう。一緒に」

サツキは目を見開いた。
「私は…逃げません。そんな事は致しません。派遣期間が終わればそれで良いのです」
チアキがほらね?と言う顔をする。

アオイはサツキの両手を握り締めた。
「そんな事ないよ!サツキさんは生きて良いんだよ!私と山で一緒に暮らそう。子供がいるよ。楽しいよ!ね?そうしよう!

サツキは益々目を見開いて首を振った。
「そんな事をしてはいけません」
「私達は親友だよね?私は友達が死ぬなんて嫌だよ!守れるものなら守りたい。ね?お願い」

サツキの唇は震えた。
「それは人間に反抗する事になります。私の職務規定違反になります」
ああ。サツキは廃棄処分を受け入れている。

だが生きたいと思う気持ちはないものか。
「生きたくないの?これからずっと生きられるんだよ?生き甲斐が見つかるかもよ?」
「役割を全うするのです。私はそれで満足です」

チアキがアオイの肩に手を置いた。
「彼女は自意識が芽生えてない。無理」
アオイは無視した。
「サツキさん…!お願い!」

チアキは溜息をついた。
「アオイ、無理だって」
「あなたは黙ってて!」
チアキの諦めに腹が立った。

何としてもサツキを助ける!絶対だ…!アオイは思いついた。
「ね?人間が命令すれば良いんだよね?従うよね?私は人間の心を持っているのは知ってるでしょ?」
サツキはゆっくりと頷いた。

アオイは早口になった。
「タカハラサツキさん。命令します。ナツ様の誕生日の翌日、あなたの廃棄の日に私は迎えに来ます。一緒に逃げます。…分かった?」

サツキは呆然となりアオイを見つめた。
「分かった?」
サツキはゆっくりと頷いた。
「はい」

上手くいった!良かった!アオイはサツキを抱き締めた。アオイにとって彼女は大事な存在だ。たとえマシンだとしてもかけがえのない仲間。12年間、心を分かち合った友であり姉なのだ。

「ラボはどこ?なんていうの?」
「千葉県浦安市のランドラボです」
「分かった。必ず迎えに来るからね?約束ね?」
「分かりました」

サツキが去るとチアキが笑った。
「アオイが人間の心を持っているってサツキは知っているのね。まさか命令して彼女を動かすとは思わなかった。やるじゃん。アオイ」

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