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アンドロイド転生226

2115年8月1日
白水村

アオイがホームで暮らして1年5ヶ月が経った。子育てと家事炊事で明け暮れた。穏やかな日々だった。アンドロイド達とは当たり障りなく過ごしていた。どちらかと言うと人間との接点の方が多かった。

アオイがタウンではナニーだったと言うこともあり、人間の母親から信頼が厚かった。アオイの穏やかな性格が彼女達に受け入れられた。子供もアオイによく懐いた。本領を発揮して幸せだった。

だが最近気掛かりな事がある。間もなく8月10日。タウンで親友だったアンドロイドのサツキの派遣終了間近である。主人の娘のナツが12歳を迎えるのだ。サツキは廃棄になるかもしれない。

アオイとは違ったラボの出身だったが、その可能性は高いだろう。サツキは姉のような存在。孤独なアオイの支えになってくれた。何とかして救いたい。その思いは日増しに強くなっていった。

アオイはチアキに相談をする事にした。夜、仕事を終えて彼女の部屋をノックした。チアキはアオイの話を聞いて深く頷いた。
「明日会いに行こう。彼女の意思を聞こう」

アオイは慌てた。
「そ、それではダメなの。サツキさんは自我の芽生えがないの。きっと運命を受け入れていると思う。私は何とか助け出したいの」

チアキは難しい顔をする。
「本人の意思を尊重しないと…」
アオイは頭を何度も下げた。
「私が説得するから…お願い」

翌日、チアキが運転する大型バイクの後部座席にアオイは乗った。都内に入り、間もなくすると懐かしい風景を見て心が躍った。ああ。あのショッピングモールはよく訪れた…!

モネの小学校の前を通り過ぎた。運動会の賑わいが思い出される。胸が一杯になった。サツキの住むマンションの前にバイクを停めた。懐かしい思いが溢れてくる。ここには何度も訪れたのだ。

さて…サツキは家にいるだろうか。今はナツの小学校は夏休みである。外出してない事を祈るばかりだ。マンションのエントランスにやって来ると女性のホログラムが浮かんだ。
『いらっしゃいませ。御用件を承ります』

「私はタカミザワサヤカと申します。タカハラアユミ様のお宅にお取り次ぎをお願い致します」
サツキの主人の名前を上げた。間もなくガラスドアに男性の画像が浮かんだ。

タカハラ家の執事である。
「サヤカ(アオイ)さん!お久し振りです」
アオイは緊張した。ここは上手くやらねば。
「ご無沙汰しております」

執事は微笑んでいる。アオイは唇を舐めた。
「サツキさんから筆を借りたのをお返しに上がりました。サツキさんはいらっしゃいますか?」
「はい。ではロビーに取りに伺わせます」

アオイとチアキはロビーに入るとソファに座った。間もなくサツキがやって来て目を丸くした。
「サ、サヤカさん…!どうして?」
アオイは立ち上がった。

昨年。アオイの派遣期間が終了し、廃棄されると覚悟してサツキと別れの挨拶をしたのが最後だった。再び逢えるとは思わなかった。当然だがサツキは何ひとつ変わっていない。優しい笑みも。

想いが込み上げてアオイの瞳に涙が滲んだ。
「サツキさん…!逢いたかった!」
「私もです…!」
2人は抱き合った。

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