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アンドロイド転生193

白水村:中庭

アオイは台所作業を終えると建物の外に出た。集落を見て驚いた。家々の造りが古き日本の趣きがあった。まさか100年先の未来で懐かしい風景に出会えるとは思わなかった。喜びで胸が一杯になった。

月夜を眺めた。風が頬を撫でた。葉擦れの音が優しい。胸元に手を当てる。ネックレスがない事が心細かった。アオイにとってその小さな石がモネと繋がる唯一の支えなのだ。

ああ。今頃モネ様はどうしているのだろうか。逢いたい。抱き締めたい。彼女の笑顔を思い返して切なくなった。涙が滲む。いつも泣き虫だ。
「モネ様。ごめんなさい。必ず見つけます」

チアキがやって来て微笑んだ。
「ネックレスがないんだって?トワとタケルが探すって言ってた」
アオイの独り言を聞き取ったようだ。

「あ!チアキさんが私を見つけて下さったんですよね?有難う御座いました」
「いつも無線ケーブルを繋いでドローンで山間部をサーチしているの。今もだよ?」

アオイは目を丸くする。
「同時進行で出来るなんて凄いですね」
「アオイだって何でも出来るんだよ?」
「私は子育てしか出来ません」

子育て…。またモネの事を思い出す。悲しくなってくる。ああ。逢いたい。チアキが柔かに笑った。
「私はここで暮らして12年になるの」
「12年も!」

アオイは驚いた。そしてチアキの口調にも。アンドロイドがこんな砕けた言葉で話すのか。そう言えばエリカもそうだった。
「チアキさんも違うんですね」
「ん?何が?」

「エリカさんもそうでしたけど、私の知っているアンドロイドと違いますね。そんな口調で喋るなんて初めてです」
「敬語じゃなくて良いよ。皆んなそうだから」

キリもエリカそう言っていた。人間とアンドロイドの境界線がないのか。凄い…。
「あ、有難う。…ここでは何をしているの?」
「そうだなぁ…」

チアキは月明かりの沢を眺めた。
「お年寄りや子供達の世話、家事全般。山仕事。野良仕事。それと…狩」
「狩?」

動物でも仕留めるのか。そう言えば夕食は狸のシチューだった。アオイは不安になった。
「私は…動物を仕留めるなんて出来きないな。甘いことを言ってるけど…」

チアキはふぅと深呼吸をした。
「狩にも色々あるよ。アオイもきっと気にいる」
ニッコリと笑った。アオイは眉根を寄せた。
「そうかなぁ」

狩をしないとホームにいられる資格は無くなるのだろうか。そしたらどうすれば良いのだろう。チアキは涼しげな眼差しを向けた。
「そのうちキリが教えてくれるよ」

「じゃ、部屋に行こうか。案内するね」
「うん!」
ホームでもアンドロイドに自室が用意されているのか。アオイは嬉しくなった。

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