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アンドロイド転生274

富士山7号目

「とてもお似合いよ。あなた達」
休憩中に出会った老婦人はアオイとタケルをカップルだと勘違いをしたがタケルはそれを否定するどころかアオイの手を握り締めて微笑んだ。

タケルの笑みをアオイは繁々と見た。いつも自分の前では仏頂面なのだ。こんなに素敵だったのか。大変魅力的だ。エリカが惚れるのも分かる。そして人間の心を持った自分達に嫉妬する事も。

婦人はニコニコと微笑む。
「うちの執事もお隣の家庭教師と恋仲なのよ?マシン同士でね。それにね?孫もね?アンドロイドとお付き合いをしているの。幸せそうよ。全く時代は変わったわねぇ」

婦人の前に老紳士がやってきた。
「楽しそうだね」
「ええ。お喋りしてたの。この子達、ご主人に頼まれてカップルで富士山に下見に来たんですって。ある意味デートよね?」

デート?まさか!苦手なタケルと?何も考えずに山を登って来たけれど他人からはそのように見えるのか?老紳士が2人を見た。
「君達はアンドロイドなのか?」
アオイとタケルは同時に頷いた。

老紳士は感心するように笑った。
「最近のは本当に性能が良くなって、マシンなのか人間なのか区別がつかんな。しかも我々とは違っていつまでもずっと若いんだなぁ」

アオイは老紳士の笑顔を見つめながら納得する。それが人間とアンドロイドの差なのだと。
「僕達はいつまで楽しめるか分からんよ」
「そうね。だから日々を感謝しましょうね」

紳士が妻に手を差し出すと夫の手を握り、元気良く立ち上がった。脚に装着しているパワーフットのお陰だ。昔ならこんな老齢の夫婦には登山は厳しかったかもしれない。

アオイは羨ましかった。きっとこの2人は若い時に一緒になって共に人生を送り歳を重ねて来たのだ。その歴史の重みは大きい。自分だって命を落とさなれけばシュウと同じ道を歩んだであろう。

アオイの口から飛び出した。
「お2人こそとってもお似合いです。羨ましいです。それこそが人間の醍醐味です!」
「有難う」

彼らは柔かに微笑むとアオイ達に手を振り去って行った。アオイは暫く彼らを眺めて見送った。2人が見えなくなるとタケルを睨んだ。
「何であんな事を言ったの?カップルなんて…」

タケルは満足そうに笑った。
「俺は美容院で沢山の人間と接した。否定しない事を学んだんだ。それで大抵の事は上手く行く」
「それが世渡り上手と言う事なのね」

タケルは立ち上がると微笑んで手を差し出した。まるでさっきの老紳士のようだ。アオイは驚いて目を見開いた。
「い、イイわよ!立てるわよ!」
「そうか?お前、鈍臭いからな。すぐ転ぶ」

アオイは急いで立ち上がった。緊張していた。アオイはタケルを横目で見上げた。
「な、何よ?あんなに怒ってたくせに」
「俺は誰かさんみたいに後を引かないんだ」

「まるで私が執念深いって言ってるみたい!」
「あ?違うの?」
タケルは笑って歩き出した。アオイは親しげな彼の違う一面を見て驚いていた。

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