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アンドロイド転生295

キサラギトモエの娘のホナミは先天性の心臓疾患があった。過去に何度か手術をしたが、今では心臓移植をしなければならない程に悪化していた。国内、海外で移植希望の登録をしていた。

だがその為には莫大な費用が掛かる。半分は国の助成金が降りた。その半分の半分は寄付や貯金で賄った。だがまだ足りない。金が用意出来なければドナーがいても移植は実施されないのだ。

そんなある日、同僚に声を掛けられた。
『お金が欲しいんでしょ?どんな事でもやる?』
『えっ⁈』
キサラギは驚いて目を見開いた。

だが直ぐに頷いた。ホナミの為なら何だってする。犯罪だって構わない。娘の命が助かるなら本望だ。でもまさか、廃棄したアンドロイドの肢体を買い取る者がいるとは思わなかった。

月に一度、アンドロイドをワゴンに詰めて裏口に運ぶ。それだけ。最悪の罪を想像したがこれなら気楽だった。どうせ終わったマシンの身体なのだ。どう使われたって良いし自分には関係がない。

だが、会社にとっては背信行為だ。上層部に知れたら辞職に追い込まれるだろう。逮捕されるかもしれない。それでも金が欲しい。喉から手が出る程だ。娘を助ける為には必要なのだ。

スイスの口座を開いて、振り込まれたペイを見て最初は犯罪に身を落とした自分に震えたが、半年経って慣れた。順調に増える数字が今では楽しみとなった。どんな汚れた物であろうと金は金だ。

キサラギに夫はいなかった。ホナミは精子バンクで出来た子供だった。この時代は珍しい事ではない。母1人。重い疾患を抱える娘1人。両親はいるが遠方である。頼る者はいなかった。

たった1人で子供を育て、看病をする。その孤独と重圧は大きかった。だがホナミの成長が喜びであり生き甲斐でもあったのだ。きっと良くなる、助かる…!その信念だけで生きていた。

キサラギはホナミの寝顔を思い出した。苦しいだろうに口元には笑みを浮かべていた。楽しい夢でも見ていたのだろうか。もしかしたら学校かもしれない。憧れているのだ。そんな細やかな願い。叶えてあげたい。

もっと喜ばせたい。笑顔でいて欲しい。そしていつか心臓移植をして元気になるのだ。命は続くのだ。ホナミ、絶対にママが守るからね。約束ね。キサラギは勢い良くワゴンを押した。

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