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アンドロイド転生229

2115年8月11日夜明け

アオイとチアキは村から出て山道を降りた。麓の車輌保管倉庫にやって来くると車に乗り込み東京に向けて出発した。2時間半後、とあるマンションの前に到着した。

アオイは親友でアンドロイドのサツキを救いに来たのだ。彼女は今日派遣契約を終了し製造されたラボに戻る。新たに派遣されるかもしれないし、役目を終えて廃棄となるかもしれない。

どちらの運命であろうがアオイはサツキを村に連れて帰ると決めていた。サツキは12年間、アオイの力になり助けてくれた。心の友だと思っている。友人関係にマシンなど関係がなかった。

アオイはチアキに協力を頼み、この日を迎えた。車内から様子を伺っているとマンションのエントランスに人影が現れた。サツキと主人のタカハラアユミ。息子のハルと娘のナツ。執事である。

サツキは主人に頭を下げる。人間達は別れを惜しむかのようにサツキを抱き締めた。遠目からでも分かるほど情愛が見て取れた。特に12歳のナツは肩を上げ下げして嗚咽を漏らしていた。

アオイはサクラコやモネ、執事のザイゼンとの別れを思い出して切ない気持ちになった。ああ。サツキもタカハラ家で愛情一杯の時を過ごしたのだ。悲しくなり胸が締め付けられた。

アオイはナニーという役割についてしみじみ思う。人間が誕生してから12年間養育する。勿論、人間にとっての利便性だろうが、人が愛を学ぶ機会でもあったのだと痛感するのだ。

ザイゼン曰く、ナニーは子供の情操教育に女性型が適していると述べたが、サツキの優しい微笑みがそれを物語っていた。彼女はいつも聖母の様な眼差しでハルとナツを見つめていた。

サツキ達は何度も抱き合っていたが、やがてサツキは深々と頭を下げて迎えに来た車に乗り込んだ。走り出すと、アユミ達と手を振る。アオイの車がその後を追った。

千葉県浦安市のサツキの製造されたランドラボに向けて2台は静かに進む。サツキを救い出すのはラボで実行しよう。40分後に目的地に到着した。車が停止しサツキは降り立った。

チアキは離れた場所に停車した。
「迎えに行ってくる。待ってて」
アオイは車から降りた。曲がり角を木の影に隠れながらサツキの様子を伺った。

今だ…!アオイは駆け出した。
「サツキさん!迎えに来たよ!行こう!」
手を差し伸べると、サツキはおずおずと繋いできた。逃亡する事を恐れているようだ。

「待て!」
アオイとサツキは振り返った。
「動くな!」
男性職員がエントランスにいた。

彼の側には屈強なアンドロイドが2体おり、アオイ達を阻んだ。手にはハンドガンが握られている。職員はニヤリとした。
「ピストルじゃないぞ?テイザー銃だ」

テイザー銃とはスタンガンの強力版だ。撃たれれば5万ボルトの電気が流れアンドロイドは死に至る。アオイは銃と守衛アンドロイドを交互に見た。恐怖のあまり動けなかった。

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