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【1%ノンフィクション】Vol.0947(2010年8月25日発行のブログより)

花火の日。

忘れていた。

今日は外苑前の花火大会だった。

あちこちから甲のマンションには人が集まってきて賑わっていた。

それで気づいたのではない。

いつもはビシッとスーツを着こなした美人コンシェルジュが
目を見張るような美しい浴⾐姿になっていたからだ。

甲のマンションは、まるでその花火大会を観るためにあるような
べストポジションの⾼層マンションだった。

熱帯夜の中、キリリと冷えたビールを片手に、
エアコンで寒いくらいの部屋でソファーに深々と腰掛けて楽しめる。

正確に言うと、部屋のエアコンがガンガンかかっているから、
熱いお茶かコーヒーを飲みながらのぜいたくな花火観賞だった。

いつもは2人のコンシェルジュが今日は10⼈体制で案内をしていた。

一発目の花火が上がった。

「うわ〜っ」

歓声がわき上がる。

マンション周辺や道路は普段見たこともない⼈だかりで溢れかえっている。

甲は部屋で一人だった。

こんな日でもパソコンに向かって仕事をしていたのだ。

仕事を⾷事に例えたならば、花⽕は漬物や、ふりかけのような存在だった。

おかげさまで、すこぶる仕事がはかどった。

やっぱり美しいものが⼈類をここまで進化させてきたのは
どうやら間違いではなさそうだ。

「8⽉19⽇って確か外苑前花火よね」

乙からメールをもらっていてまだ返事をしていなかったのが
ふと頭をよぎった。

慌てて写メールで撮ったものを送った。

ラッキーなことにそれがクライマックスだった。

無欲の勝利だ、
などと意味不明な言葉を呟きながら得意気になって送信した。

そういえば乙と出逢ったときも花火の日だった。

あれが、乙との始まりだった。

始まりは、いつも終わってからわかる。

 ...千田琢哉(2010年8月25日発行の次代創造館ブログより)

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