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清舟の人間としての成長がまぶしく、心に沁みた『ばらかもん』最終回

『ばらかもん』のことを「良質なヒューマンドラマ」と私は以前noteに書きましたが、まさにその感想のまま最終回を迎えたように感じています。

清舟と島の人々との心温まる触れ合い以外にも、残念ながら亡くなってしまったヤスばと育江、なるとお父さん、清舟と父・清明、清舟と川藤などなど。それぞれの人間模様も丁寧に描かれていて何度も涙しました。

特に鷲尾真知子演じるヤスばの演技はベテランの深みと味が感じられて素晴らしかったです。

なるの父親役の岡田義徳も、ちょっとちゃらんぽらんな自由人っぽいけれど、娘・なるへの愛情を巧みに演じていたと思います。

島の子供たちも、なるを筆頭に田舎の子供らしさ全開で、その愛らしさに毎度癒やされました。

ドラマの後半戦、清舟が書道家をやめて書道教室の先生になると宣言した頃から最後に向けてどんな展開になっていくのか先が見えなくなりました。

でも最終回、書道教室の先生をやりながら書道家としても再びやっていくと川藤に告げた清舟。これからは“書の二刀流“でいくと決めた清舟の未来は、なると二人で見た夕日のようにきっと輝いていることでしょう。

最終回、売り出し中のアイドルとカメラマンの二人のくだりは必要なのかどうかという想いで最初観ていました。

が、清舟が自分がそうしてもらったように、今度は“島の人間“として東京から来た人たちをもてなす心を持てたことを表現したかったのだと理解しました。

あなたにとって宝物はなんですか?

とそのアイドルに質問されたときの清舟の言葉が感動的でした。

俺の宝物はみんなからの“ひと声“かな。
俺も東京から来たから始めは疎外感があったんだ。
村に馴染む気もなかったし、受け入れてほしいなんて思ってもいなかった。
でも、村の人が少しずつ“ひと声“かけてくれるようになって、それが“ふた声“になって、気づいたら“会話“になってた。今じゃ自分から話しかけてる。自分がこんなにも人と話せるなんて知らなかった。

すべては“ひと声“から始まったんだ。“ひと声“は人を変えるんだよ。
みんなからの“ひと声“が俺の宝物。

『ばらかもん』最終回より

書道家として書を書くことだけに必死だった清舟の孤高の人生が、さまざまな人々との出逢いによって大きく変貌を遂げたことがよく伝わってくる言葉だと思います。独りではなく、島のみんなと一緒に生きている実感がそこに感じられますよね。自分の居場所を見つけられたんだと。

思えば清舟は五島列島で色んな“書“を書いてきました。

無心で書いた「楽」の一文字。
町民体育祭でみんなが付けるゼッケン。
寺の寄付者全員の名前。
美和の父から頼まれて中古船に書いた「唯我独尊丸」。
満天の星を見て書いた「星」の一文字。
島で出逢った人たちの名前がぎっしり書かれた「石垣」。

そして最終回。なるたちに背中を押されて書いた再びの「楽」の一文字。最初に書いた「楽」の一文字とは、そこに込められた想いがまたひと味違ったものだったように感じます。

「やばい。久々の感覚。先生になるために忘れてたこの感覚。自分だけの作品。俺の世界を作る感覚」

“書の二刀流“を清舟が決意した瞬間だったと思います。

最終回、父・清明との書道家同士としての絆も描かれていました。

清明がなかなか書けなかったホテルの館内に飾る作品がついに完成。なるの失敗もヒントになった見事な「夢」の一文字。その“書“を見た清舟の心に何かが芽生えたようでした。

「やっぱり半田のやる気に火をつけるのは清明先生なんですね」
「またいつかあいつが書きたくなったら書けばいいさ。それと、私の火を消さないためにも息子のことよろしく頼む。私のやる気に火をつけるのもあいつなんだよ」

『ばらかもん』最終回より

川藤と父・清明とのこの会話のやり取りが、「父と子」でありながら「師匠と弟子」でもある二人の関係性をよく表していたと思います。互いに互いを高め合いながら、いつかは父を越えていくであろう清舟の姿が見えたような気がします。

夢に向かって突き進んでいくことは決して楽しいことばかりではなく、ときに立ち止まり、つまづき、もうこれ以上進めないとあきらめてしまいたくなることもあると思います。

これから清舟自身も、料理人を目指す浩志も、漫画家を目指す珠子も、父の酒店をつごうとする美和も、そして何を夢見て成長していくのか未知のなるたちも、そんな風に悩んだり苦しんだりしながら、また前に進んで生き続けていくことでしょう。

でも、彼らには優しく包み込んでくれる五島列島の大自然がいつでも待ってくれている…。疲れたらひと休みして、そこからまた歩き出せばいい…。

清舟たちの未来も気になるし、なるたちのこれからの成長も見たい…。『ばらかもん2』がいつかまた観られることを願っています。

忘れられないドラマがまた一つ増えました。

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