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彩礼は本当に中国の伝統か

彩礼とはなにか

中国の彩礼(Cǎilǐ)は「結納」と日本語に翻訳されることがあるが、中国の彩礼は日本語の結納とは似て非なるものである。特に現代中国における彩礼は結納のような形式的なものではなく、彩礼それ自体が核心であり、結婚の目的である。両親はその額に応じて娘の結婚の可否を決定する。

現代中国では、男性は「彩礼」「持ち家」「自家用車」の三つを準備しなければ結婚できないとよく言われるが、これは誇張ではない。現代中国には「無料」は存在しない。親にとって娘は「嫁にやる」ものではなく「嫁に売る」もの、男性にとって奥さんは「もらう」ものではなく「買う」ものである。オークションで実の娘を競売にかけ、ソロバンを片手に値段を吊り上げる強欲な商売人の姿があちこちで見られる。

私が経験した彩礼

私が以前2年間交際した湖北省出身の元妻と結婚した時、私は彼女の母親から6万元(約100万円)をなかば公然と要求された。理由は「自分たちには面子があるから」というものだった。現金で1万元ずつ束にし、布団の下に見えないように隠しておかせるという徹底ぶりだった。徴税対象となる収支記録は一切残さない。まるで身代金の受け渡しの要求のようだと思ったが、実際にそのような性質のものに違いはなかった。

当時は「面子がある人間がよくもまあそんな恥知らずなことをするものだ」と思ったものだが、彼らにとっての「面子」の意味はあくまで「村の他の娘より高い値段を付けてもらわなければ恥ずかしい」という類のものである。不思議なことに、彼ら自身、自分の娘に値段をつけていることが恥であるという認識は全くなかった。

その後、彼らはそのお金を頭金にワインセラー付きの新築マンションを買った。私は内装段階の部屋に連れていかれ、終わらない自慢話をいつまでも聞かされた。私には、そのお金で3万5千円のシチズンの腕時計を買ってくれた。最初から最後まで彼ら、特に彼女の母親は私に対して貪欲だった。

買妻行為を正当化する中国人の論理

現在の中国の男女比は118:100である。中国の国家統計局のデータによるとによると、2018年末時点で中国の男性は女性より3164万人多い。ざっと日本の首都圏人口と同数、中国人男性の約5人に1人が今後結婚できないことを意味している。男性の絶対数がそれだけ多いのだ。これは長年にわたる一人っ子政策により、男子が欲しがられる農村部で女子の胎児の人工中絶が横行した必然の結果ともいえる「余剰男子」の氾濫である。

それ故、カネのある男たちは競って結婚相手を「買う」。特に、男性の比率が高く、貧困かつ教育水準の低い農村地帯ではその傾向がより顕著である。その結果、「嫁」の値段は高騰する。彼らは年収の10倍以上、日本の感覚でいうなら数千万円以上のお金を出して嫁を買う。SOHU.COMのネット記事「每个要高彩礼的爹妈,都是卖女儿的人贩子」では近年の彩礼金の過熱ぶりを「さながら人身売買の商人に等しい」と断じている。

彩礼の高騰に伴い、人さらいや誘拐事件などの犯罪も多発する。それでも結婚相手が見つからない場合は、ビルマやベトナム、北朝鮮などの相対的に貧しい隣国から「輸入」する。もはやカネに糸目はつけない。それほど中国人男性は結婚に必死なのだ。

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新しい陋習としての彩礼

20世紀以前の彩礼は単なる儀式的なものに過ぎなかったが、改革開放以降の政権下においてはその形式が目的と化した。金額も90年代に比べ平均4倍から10倍に高騰している。いまの時代、金持ちは勝利者であるのみならず、カネがあることは美徳であり、カネがあることは正義である。結果として金持ちにさえなれば、その過程がどれほど薄汚いものであろうが一切関係ない。習近平政権下においては腐敗官僚と結託した新興ブルジョアジーが社会のあらゆる場面において跳梁跋扈している。

多くの中国人はおそらく「彩礼は中国の伝統です」と言うだろう。これは事実でもあるが、嘘でもある。ある男性ブロガーは動画再生サイト「抖音」で「彩礼は中国の伝統などではなく、婚姻を売買する封建的悪習に過ぎない」(彩礼并不是中国的传统,而是婚姻买卖的封建陋习(lòuxí)而已)とコメントしていた。現代中国の彩礼とは、かつて存在していた同名の中国の伝統上の「彩礼」の概念に都合よく上書きされた、中国式資本原理主義の新しい悪習のひとつに過ぎないと批判している。それは伝統の名を借りた脱法行為であり、結婚を利用した人身売買である。形を変え、美名でいくらか粉飾できたとしても、「女は買うもの」という考えは封建時代の男尊女卑的発想と幾分の違いもない。中国人が誇る「中華民族の伝統」など、蓋を開ければこの程度のものである。

結語

中国人にとって彩礼にかかわる金銭問題は我々が考える以上に重要な関心事である。なぜなら、彩礼の金額は親の面子と正比例するものだからである。面子は中国人にとって命より大切な関心事なのだ。

あなたが中国人女性との結婚を考えているなら、本当に彩礼が文明的行為なのか一度立ち止まって考えてみてほしい。彩礼はあなたと中国人妻(そしてその家族)との関係性を試す最初の関門になるからだ。ひょっとするとこれが最初で最後の障害となるかもしれない。私の強欲な元義母がそうだったように、金銭に対する要求がますますエスカレートする可能性があることも覚悟すべきかもしれない。

彩礼を支払うか支払わないかは本人次第だが、「郷に入っては郷に従え」という考えはすべてを思考停止へと追いやる。あなたが当事者である場合はなおさらだ。事前に十分に話し合いを行い、彩礼の支払いの可否を決めるとよいだろう。(了)

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