田中

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  • 大と小

    ボロアパートの一角に住む個性あるふたりの日常物語。

最近の記事

たまごサンド

 また失敗してしまった。まだ柔らかい。半熟にしたいときはカチカチのゆで卵ができるのに、今日に限って見事な半熟。これじゃあたまごサンドを作るのは難しい。こんな些細な失敗は私に、人生はどうもうまくいかないと思わせる。これは卵に限った話じゃないし、卵なんてかわいいもんだ。だけど、やっぱり失敗は苦しいから、なかったことにしたくて、ドロドロの卵でたまごサンドを作ることを決めた。  最初の1つ目と同じように、憎らしいほど半熟のゆで卵をむいていく。失敗はわかり切っているのに、一つ、また一つ

    • 兵器と少女(SF短編小説)

       ある時、地球で戦争が起こりました。きっかけは些細な事でしたが、憎しみは憎しみを呼び、戦火は世界を包みました。争いは日に日に激しさを増していき、方法もどんどん残酷なものへと変化していきます。そんな時、しがない小国の博士はそんな愚かな人類を憎み、ある兵器を作り出します。世界に溢れた憎しみを一身に集めたような、そんなおぞましい兵器でした。機械と生体部を併せ持ち、自らメンテナンスを繰り返すことで、永久に進化を繰り返しながら活動することが可能でした。そんな憎しみの体現者は、ただ自分の

      • 失恋の夕焼け

        失恋の夕焼けはとびっきり綺麗だそうだ。学校帰りのいつもの夕焼けを眺めながら思いだす。昨日読んだ小説の主人公が言っていた。いつだかのドラマでも言ってた気がする。それには、ひとつの常識みたいな雰囲気があった。そんなに沢山の人が経験することでもないだろうに。でも、ほんとに綺麗なんだろうか。夕焼けが心持ちで、まして悲しい気持ちの時に、綺麗になったりするだろうか。知りたい。めっちゃ知りたい。高まる好奇心を抑えられなくなる。いつも気になったことは、知らないといられない質で、今回は失恋の夕

        • 最近のマイブームは金曜の夜は映画と酒。酒はいつでも傍にあったけれど、映画は今まで殆ど見なかった。ふと目に入れた金ローが思いの外面白く、映画に興味を持った。と、言っても高尚な芸術は理解できないし、ニッチなものを探すわけでもない。今流行の俳優のアクションシーンや「アカデミー賞」の文字が選択基準だ。大きな音で見るのがポイントで、最高の臨場感を味わえる。今日は珍しく、恋愛映画。見ていると死にたくなるから普段は見ない。なぜかって、聞くなよ。それに今回は生きていられそうだ。予想に反して、

        たまごサンド

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        • 大と小
          3本

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          暇つぶし

          暇つぶし

          #3 大と小

          入社してから2年と少し。大との時間を少しでも充実したさせるために仕事は絶対に持ち帰らないのが自分なりのルールだった。特に休日に仕事を持ち越さないように気をつけていた。しかし、月日がたち、少しずつ新人としての扱いは薄れ一人前の仕事を任されるようになった。売上のそう多くないこの一般中小に先進的なホワイトはなく、給与と比べ、多少多めの仕事量が要求された。これまでには何とかしてきたのだが、今回の仕事はなかなかに手こずってしまった。このような仕事を任されるのは先輩上司から認められた証で

          #3 大と小

          #2 大と小

          毎週月曜はカレーの日。唯一の得意料理であり、2人の好物であるカレーを作る。大学生である僕はバイトはしているものの、家賃以外は全て社会人である小に払ってもらっているのは、とても心苦しい。だから夕飯くらいは僕が作りたいのだが、そうもいかない。小いわく、僕の料理はカレー以外は罰ゲームみたいな味らしい。酷い話だが、仕方がなくカレーだけでもと僕が作らせてもらっている。僕は自分の作るどのおかずも美味しいと思ってるんだけどな.......。そんなことを毎週考えながら、小の好きな大きさに人参

          #2 大と小

          #1 大と小

          今日は2人で久々に映画を見る。それはそれは定番でお決まりの起承転結が繰り広げられるB級バトル映画だ。もちろん英語で日本語字幕。映画を楽しむときの俺たちのちょっとしたルール。2人で家賃を折半しているこの小さなアパートの一角で夏ならレトロなちゃぶ台を、冬なら継ぎ接ぎのこたつを囲んで100円のポップコーンと好き好きの酒。月1度程の定例会だったので前回から約1ヶ月たった今日、俺から提案した。あいつも満面の笑みでの承諾だった。 「そろそろつけるぞ」 小さな画面に繋がった安物のDVDデッ

          #1 大と小

          安楽死と尊厳死

          ある雑誌の編集者だった私と彼との出会いはある記事のためのインタビューである。命を尊さを世に伝えていく活動をしていた彼が、安楽死尊厳死の合法化を阻止し、命の尊重を完成させた直後に行われたインタビューの話だ。 「遂に安楽死尊厳死を合法化しようとしていた政党が倒れ、首相が命をかろんじていたことを認め謝罪しましたが、これはあなたがたの活動が実を結んだ結果と言えます。今のお気持ちをお聞かせください。」 会社で考えておいた定型文をそのままに話す。彼は不気味な笑みを見せゆっくりとした口

          安楽死と尊厳死

          坂道

          どうも、道路標識です。法定速度時速50kmを示す、丸い顔した標識です。5年前から緩やかな坂道の真ん中に位置しています。緩やかとは言いえど、坂道で法定速度時速50kmはいいのか法律に疎い私には分かりませんが、事故のない平和な道です。今日は煮えたぎるような暑さで気が滅入りそうです。地が泣いているような陽炎が眼下に揺らいでいます。いまは、午前10時を回った所でしょうか、車が時折私の前を横切っていきます。おっと!今日最初の歩行者です。高校生になりたてのカップルでしょうか、顔に少し幼さ

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          安楽死

          いつかこれを読む誰かへ。 ネットの荒波からこれを見つけ出してくれてありがとう。まずは、今の現状をここに記す。 個人の自由の尊重が進んだこの日本で、安楽死が自由化されて約八十年。人間は遂に死への寛容を手に入れた。尊厳死を目的として可決されたはずの安楽死についての法令は、自由化の流れを受けてその身に不治の病を宿す者、何らかの理由で精神に重い影を持つ者に限らず、死にたいと思った時に、取り返しのつかないことをしてしまった時に「手軽に」死を迎えられる救済措置へと変わっていった。しかし自

          安楽死