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人口オ―ナスと人手不足で苦しむ日本

 国立社会保障・人口問題研究所が2023年に発表した令和2(2020)年国勢調査に基づく全国将来人口推計を見ると、今後、日本の人口がどれほどの規模でまたどれほどのスピードで減少していくかがよく解ります。
日本の人口が最も多かった最後の年である2008年から2020年までの12年間に減少した人口は190万人程です。このくらいですと私達は日常生活で社会の高齢化は肌で感じても、人口減少は実感していないかもしれません(もちろん地域差はありますが)。
 しかし今後50年間の減少規模の推定値を見てみると2020年代の年間60万人から始まって、その後加速度がつくように減少規模が大きくなり、2060年代には毎年、90万人超の人口が失われてゆくと推測されています。

なぜ人口減少が問題なの?-人口減少が問題な4つの理由
 
日本の人口減少過程においては、4つの大きな問題があると思います。
1つ目は「人口革命」とも言うべき程に、スピードとその規模が急激かつ大きい事、2つ目はグローバル化する中で人口増加する世界と逆行すること、
3つ目は少子高齢化で人口構成の歪みが進行している事、4つ目はシステムと意識が前の時代のままで備えができていないことであります。
 
第1の問題、70万都市が毎年消滅する!(減少の規模とスピードが尋常じゃない)
 減少人口数を各年代別に現在のおおよその都道府県人口に当てはめて見ると、次の様になります。
2008年~2020年   - 1,938千人   3県(鳥取、島根、高知)
2021年~2030年   - 6,030千人   7県(徳島、福井、山梨、佐賀、
                      和歌山、香川、秋田)
2031年~2040年   - 7,279千人   5県(京都、大分、石川、岩手、
                      青森)
2041年~2050年    - 8,151千人     6県(長崎、奈良、愛媛、山口、
                      滋賀、沖縄)
2051年~2060年    -    8,538千人     5県(熊本、三重、福島、富山、
                      長野)
2061年~2070年    -    9,152千人   5県(栃木、群馬、岐阜、山形
                      新潟)
                      
 このように2070年にはほぼ現在の30県余りに相当する人口が日本列島から消失してしまうのです。この急激な人口減少は「市場の縮小」と「労働力不足」をもたらし日本社会を確実に毀損していきます。いかにこの激変を緩和する政策を取るかが日本の最大の課題となります。
 
第2の問題、世界の人口は増加していくのに
 国連の世界人口白書2023年版によると、世界人口は2023年に80 億人(中国とインドだけで約28億人)を超え、2050 年には97億人に達し、21 世紀末には109億人以上になると予想されています。インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ共和国、エチオピア、エジプト、フィリピン、タンザニアの8か国が2050年までに大幅に増加する国とされています。このような世界人口の増加分のほとんどは、どちらかというと開発途上国の伸びがその増加の原因ですが、欧米主要国でも2010年と2050年で見るとアメリカが3億1千万→3億9千万人、イギリスが6千2百万人→6千7百万人、フランスが6千2百万人→6千3百万人、ドイツが8千2百万人→7千8百万人、イタリアが6千万人→5千1百万人、カナダが3千4百万人→4千3百万人になると予想されています。
これからの近未来でみると,日本と同様に人口が大きく減少する推計結果を示しているのはドイツと韓国(それでも、日本ほどではない)くらいです。国ごとに状況は違いますが、他の国では、人口の自然減が始まる時期が遅いとか、国際人口移動の結果として人口の自然減少を社会増加が補うなどが予想されています。
このように世界の人口が今後も爆発的に増加し、あるいは現状維持に留まる国が多い中で、世界に先駆けて人口減少社会に突入するということは、グローバルな時代に、「市場の縮小」と「労働力不足」と戦いながら生活をしていかなければならないということです。
 
第3の問題、高齢化により、これまでに誰もが担いだことのない「重荷」を背負う(人口構成の課題)
 最近「人口ボーナス」とか「人口オーナス」という言葉をよく見かけるようになりました。「ボーナス」の意味はなんとなく解ると思いますが、「人口オーナス」とは人口ボーナスの反対語で、従属人口(0~14歳の年少人口、65歳以上の老年人口の合計)が増えつつある状態で、「オーナス」とは英語の「負担」「重荷」といった意味を指します。すなわち、人口によって社会が「ボーナス」を得たり、「重荷」を背負ったりということを意味しているのです。
 一般に15歳~64歳は「生産年齢人口」と呼ばれ、働いて食い扶持を稼ぎ出す役割を負っています。これは家族でも広く社会においても同じです。それに対して、それ以外の子どもと高齢者の人口は「生産年齢人口」によって養われる身なので、「従属人口」と呼ばれます。
この従属人口と生産年齢人口の割合を次の計算式で表したのが「従属人口指数」と言います。
従属人口指数=「従属人口(15歳未満及び65歳以上)」÷「生産年齢人口(15歳~64歳)」×100
この指数が高いということは働く人に対して養われる人が多いことを意味しており、逆に小さい時は養われる人が少ないということです。

数字は国立社会保障人口問題研究所;2020年までは人口統計資料集、
                    2025年以降は日本の将来推計人口より


このグラフを見て解るように、戦前の日本社会は、そこそここの指数が高かったのですが、高齢者は少なく、ほとんどが子供人口に対する負担でした。しかも当時の日本は農村社会であり、ある意味子供も労働力としてりっぱな働き手だったわけですし、進学率も低く、早くから働いていたというのが実態でした。戦後になって、「生産年齢人口」が「従属人口」に比べて圧倒的に多い高度成長期はまさに人口ボーナス期でした。人口の増加が経済にプラスに作用して、社会が豊かさを実感できたのです。ところが1965~2000年ごろまでで日本のボーナス期は終了しました。
 バブル崩壊後、「生産年齢人口」に対する「従属人口」の比率が高まると逆に人口の動きが経済にマイナスに作用して、社会が豊かさを感じられなくなってきたのです。もちろん今までにも経済の好調・不調の波はありましたが、人口オーナス期はその景気変動の波を下方へ引き下げるために好況期もあまり好調さを実感できず、不況期にはその不調のレベルを大きくしていっているのです。それでもこの20年は、従属人口指数は高まりましたが、まだほんとうの意味での「人口オーナス期」ではありませんでした。これから50年以上に渡る、長い長い「人口オーナス期」を堪え忍んで行かなければなりません。
 そしてグラフから読み取れるように、これからの時代はオーナスはさらに大きくなって行きます。そしてこのオーナスはほとんどが高齢者ですから戦前とは性格が異なります。さらに進学率の高まりで実際には15-22歳人口は生産年齢人口とはなっていませんから、人口オーナスの実態はグラフ以上に深刻なものとなっていきます。それは、あたかも、ギリシャ神話で天を支える苦しみを味わうアトラスを体現するような時代を迎えることを意味するのです。

第4の問題、新しい時代への転換が遅れる日本社会
 一般に「革命」とか「戦争」は社会の構造を根本的に変えてしまう力が働くので、大きな混乱や軋轢を生み出し、混乱や貧困、など不幸の種を撒き散らすことは避ける事ができないと思います。日本がこれから迎えようとしている時代、それは「人口革命」とも呼ぶべきものであり、同じように混乱と貧困を引き起こすでしょう。しかし、この「人口革命」という激変の唯一ありがたい点は、将来に渡り、それを見通すことができることです。今現在、生きている人が10年後にどのくらい生き残っているか、20年後にどのくらい生き残っているか、それは、ほぼ正確に予想ができる。そして、将来人口はその数字に、それまでにどれだけの人が生まれてくるか(出生率の変化からほぼ推測可能である)と、国境を越えた社会的移動の変化(国家政策的な側面もありある程度推測可能)を加減して予測できるからである。そして、この先を見通せるという利点によって、国全体で、社会全体で対策を立てることが可能なはずです。
 しかし、残念な事に、今の日本では、人口減少が叫ばれて久しいにもかかわらず、社会のシステムと国民の意識が前の時代(右肩上がりの時代)のままで、備えができていないと言えるのではないでしょうか。そして、実はこの点にこそ、「人口減少社会」が抱える最大の問題点があるように思えるのです。前の時代(右肩上がりの時代)のシステムや意識、今まで当たり前だったこと、常識・・・・右肩上がりの“価値観”にはどんなものがあるでしょうか?例えば、『終身雇用や年功序列に代表される従来の雇用制度』、『女性は(「母の手で」)子育て、男性は(育児・家事はせず)仕事」という性別分業』、『大量生産・大量消費の社会』、『売上高至上主義』、『単一文化 ⇒ 多様性』、『行き過ぎた競争社会』など、これらは崩壊しつつあるとはいえ、依然、日本の社会に根を張っているのです。


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