伝説の暴力教師、三井朗

三井はキレる前にニタァ〜っと笑う癖があった。少し吃りながら、

「山田ァ、おっ、おっ、お前」
来る!
胸ぐらを思い切り掴み上げられ、電光石火のビンタが炸裂。音が派手に響きわたる。めちゃくちゃ痛いが、ホッペが赤くなる程度で病院に行くほどではない。
そのまま、机に仰向けに押し倒して、おでこがくっつきそうな位の距離で怒鳴り散らす。
まるでアメリカのポリスの制圧術だ。
三井はポリスではない。看守でもない。
彼の職業は公立中学校の国語の教諭。
僕らの青春を真っ黒に塗りつぶした、張本人である。
僕らの中学校時代3年間、彼は人を殴らなかった日は無いのではないか。その位僕たちは、日常的にボカボカペチペチ殴られていた。
相手が女子でも関係ない。逆らう者には容赦がないのだ。
Sさんという女子は、三井に口答えをしただけで、ヘッドロックをかけられ、引きずり回され、さらにその状態のまま階段をずり上がり、2Fの職員室まで連れていかれた。
助けてくれる大人はいなかった。
他の先生たちは見て見ぬふり。
親に訴えても、

「先生の言う事を聞かない、お前が悪い。」
サッカー部のキャプテン、K君はうっかり
「三井がよぉ〜」と呼び捨てにしているのを
物陰に隠れていた三井に聞かれてしまい、
ビンタ→壁にバウンド→ビンタ→バウンド→ビンタ→バウンド、という格ゲーの様なスーパーコンボを食らっていた。
僕は幸いにして、三井が担任になった事がないのだが、三井のクラスは終礼が異様に長い。
部活が終わって、辺りが真っ暗なってもまだ説教し続けるのだ。仕事熱心というか、粘着気質というか。
これは後に同級生から聞いた話だが、M井が「お前!言いたい事があるなら、言ってみろッ!」
とTさんという女子に言ったところTさんは、
「お前さえいなけりゃ、天国なんだよ」

と答えたらしい。
僕は目頭が熱くなった。本当にそうなのだ。
Tさんは僕らの学年のジャンヌダルクだ。
卒業式、女子達は泣いていた。
ロクな思い出がない事が悲しすぎて。
男子達は笑っていた。
この学校にもう来なくて良い事が嬉しくて。

言うまでもないが、恩師を交えての同窓会はいまだ行われていない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?