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児童精神科医のアプローチに学ぶ、子どもの心を守る関わり方

先生の学校編集部は、取材を通して日々悩み、葛藤している先生の姿に出会います。中でも多いと感じるのが、子どもとの関わり方についての悩み。

優しい先生がいいのか、強いリーダーシップのある先生がいいのか、自分なりの答えが出せない先生や、自分が「教員としてこうありたい」と思う姿と職場から求められる姿にズレがあって板挟みになっているなど、少しでも納得のいく関わり方を模索している先生方も多いのではないでしょうか。

そんなときは、目の前の状況を少し違った角度から捉えてみると、何か悩みを軽くするようなヒントが見つかるかもしれません。

そこで今回は、児童精神科医の視点に注目し、子どもの心を守る関わり方を実践されている児童精神科医の三ケ田智弘さんにお話を聞きました。

(1)児童精神科医のアプローチってどんなもの?

三ケ田さん、もっと教えて!Part.1

Q. 子どもの「自己肯定感が低い」という悩みや相談に、どのように向き合っていらっしゃいますか?

「うちの子は自己肯定感が低いんです」と相談を受けたときは、その子のどんなところがそう思わせるのかをよく聞くようにしています。中には「自己肯定感が低い」と本人や親が思い込み過ぎているケースも見受けられるからです。

社会に「自己肯定感が低い子どもたちが増えた」という空気が流れているから、自分もそうなんだと思い込んでしまったり、保護者や先生など大人がアレコレと口を出し過ぎてしまっているが故に、子どもの自己肯定感を下げてしまっていたりすることもあります。

具体事例を聞けばアセスメントができ、力を注ぐべきターゲットが見えてくるので、まずはじっくり、具体的に話を聞きます。その上で、本人をどうこう変えるよりも、保護者や先生など大人側の価値観を変えていく方がはるかに有意義な場合もあります。

ちなみに、他人と比較する文化がある以上はどうしたって自己肯定感は下がるしかないので、心当たりがある大人はまずはそれをやめてみましょう。他人との比較をものさしにするのではなくて、その子が「楽しい、うれしい、自分は誰かの役に立っている」と思える経験をたくさんさせてあげてください。その点、料理やキャンプなどのアウトドア体験はもってこいですよ。

三ケ田さん、もっと教えて!Part.2

Q. 子どものことを「よく見る」とは、具体的にはどういうことですか?

子どもの目線で、その子に何が起きているのかを理解する努力をすること。それが「よく見る」ということです。

例えばこんな事例がありました。あるADHDのお子さんが、学校の集会時、落ち着きがない態度ですごく嫌そうな表情でその場に座って参加をしていました。その子は担任の先生から「態度が悪い」と叱られ、逆にその子がブチ切れてしまったということがありました。

先生の目線で見れば、参加態度が悪いということで指導をしたわけですが、別の見方をすれば、同じ場所にじっと座っていることが辛いと感じるADHDのお子さんが、その場でじっと座っていられたというのは、その子にとってはすごい努力だし、頑張って感情をコントロールしていたわけです。そこに注目して見てあげてほしいなと思うのです。

ですのでぜひ、目の前にある状況だけを見るのではなく、その奥にある背景や文脈までを読み取ってあげてほしいと思います。その子がどこで何をしているのかも含めて考えた上で、その時に言うべき指導の言葉を考えられると良いですね。

(2)子どもの心を守るために学校や家庭でできる関わり方

三ケ田さん、もっと教えて!Part.3

Q. 子どもとうまく関われなくて悩んだとき、どのように対処したらいいですか?

先生も保護者の方も、忙しい中ですごくよく頑張っていると思います。よく頑張っているから悩むんですよね。そういう方々には「100点満点の関わり方を目指さずに、ほどほどでいいんじゃないですか?」と伝えています。

それとともに、ほどほどを体現するための魔法の言葉を伝えるようにしています。その言葉とは「まあ、いいか」です。悩んだときはぜひ「まあ、いいか」とつぶやいてみてください。「まあいいかあ〜」と重めに呟くのもよし、「ま、いっか!」と軽めに言ってみるもよし。

実はこれは、私が働く児童精神科の外来に来る子どもたちとも取り組んでいる方法でもあります。子どもたちと一緒に「まあ、いいか」と言う練習をして、子どもたちが悩んだりパニックになったりしたときに、すぐ出てくるようにしています。この言葉を呪文のように使うことで、子どもたちが自分で自分の心を緩めることにもつながります

悩むときというのは余裕がなくなったときでもあるので、マインドフルネスや瞑想をすることで、自分自身の本来の落ち着きを取り戻す時間をとることもオススメです。

取材・文:先生の学校編集部 | 漫画・イラスト:島田 あや

※こちらのマンガは、「先生の学校」が発行する、雑誌HOPE 2023年冬号に掲載したものです