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秘密を守って、実は先生と・・・

「黙っててくれる?」
その返事は「うん」としか言えない。

高校時代に仲良しだった子から突然告白されたのは、
「あたし先生と付き合ってるの」
えええー!

彼女は、10歳年上の教師と付き合っていた。
誰も知らなかった。
そしてこの事は勿論、誰にも言えない。
でも駅でふたりでいるのを見かける生徒が増えてきた。
もしかして・・・と訊かれる。
その度に私は「知らない、そんなこと聞いてない」ととぼけた。

とぼけた、知らないと言い続けた、高校二年生から卒業するまで言い続けた。でも周りは「付き合ってんだろ?」とちらほら言い出していた。

私の高校生活の半分は、この秘密を守る義務を負わされたことになる。
なんなんだ、いったい・・・

で、月曜日は彼女の惚気話を聞かされた。
「前の彼女のものがトイレにあってさ、頭きちゃうわよ」
「そうなんだ」
「前の彼女の服があってさ、怒ったら、
ごめんなさいって言ったから許したけど」
「そう・・・」
こんな会話を学校帰りに延々と聞かされる。
とうとう先生は、私の同級生のために心機一転引っ越した。

22歳のとき、私の同級生は先生と結婚式を挙げた。
高校の教員も出席し、私も参列した。
その時、先生の同僚が、
「あいつは偉いよ、よく意思を通して結婚した」
と感心していた。
この先生は、私の作文だけは誉めてくれた国語の教師だ。
意思を通したのではなく、
彼女に尻叩かれてここまで来ただけだよ、
私は心の中でそう言った。

秘密は持った途端に誰かに言いたくなるが、
さすがに生徒と教師の恋愛は言えなかった。

すでに何十年も音信不通だが、きっとそれなりに暮らしているはずだ。
東京のどこかで。




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