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日欧左右の奇妙なねじれ

外国人が多数集まるフェミニズムLINEに入っていて、日本国内の左翼と欧米の左翼(やはり発言力があるのは欧米かーだった)でいくつか興味深い相違があることに気付いた。

まず親米かどうかについて。
これは歴史的経緯が大きいと思う。日本かーは戦前ファシズムで、自国政府にこそ酷い目に遭ってきたから、そこから救ってくれたアメリカ様については好意的な人が多い。例え原爆を落とされていても。
実際、敗戦国に露骨な略奪や搾取、侵略をせず、むしろ民主主義や人権憲法をもたらすなんて、人類史上そんな優しい戦勝国があっただろうか。もちろん反共の防波堤にしたかったから、というのがあるにしても、普通ありえないくらいの好待遇である。
しかしただの防波堤だから、「本当に」左翼化(赤化)するのは認めてこなかった。その辺りに今の歪な現状への責任があるとは思う。とはいえ民主主義や人権憲法の時点で日本人にとっては十分過ぎるほど左翼的だったのである。自国政府よりはずっとマシだった。そして右翼は右翼で、戦争犯罪に甘く、左翼弾圧政策を支持するアメリカ様になびいた。
どちらも依存に基づいたアメリカ支持だった。そのせいで今もまともな人権意識は育たず、権威主義と民主主義が共存する歪な構造になっている。だけどそれは自分たち自身が成長を拒絶してきたせいでもあるよね、と思う。そんな訳で日本人は左右を問わず親米な人が多い。
そしてフェミLINEで話を聞いたところ反米な人が多くて驚いた。それはアメリカが断固資本主義な点で欧米左翼から見ると右翼に見えるからだと思う。次に説明する。

資本主義について。
日本かーは左翼も右翼もそこまで資本主義を否定しない傾向にある。冷戦構造の中で資本主義陣営のアメリカに付いたから、というのは大きいが、それだけでもないように思う。日本人は封建時代から恥とプライドの文化があり、他人に頼るのを良しとしない。
無私の精神、滅私奉公など、「人に仕えて仕事をする」道徳が昔からあった。ウェーバーの「プロ倫」さながらの勤労道徳だ。一方で、悪人正機や陰徳など、福祉やセーフティネットを軽視する思想とセットなので、アメリカよりも苛烈な市場原理主義ではないだろうか。
日本人は学生運動時代に左翼テロリズムの暴力性と破綻も見てきているから、左翼嫌いな一般人が多い。カンボジアのポルポトは極端な例かもだが、中国の文革や北朝鮮を見てきて共産主義に良いイメージを持てないから、資本主義支持者が多いのだろう。
大学時代のパワハラ教授も、激しい受験戦争を勝ち抜いてきたという自負があるからか、はっきり資本主義批判はしなかったし、むしろ競争社会肯定で差別的だった。
そこにきて、フェミLINEの欧米かーは超軽々しく反資本主義なのでびっくりした。国内の教育や職場の問題点を挙げる記事を出しても、最終的には「資本主義とネットのせいよ!」で片付けてしまう。現地住民であるこっちは切実な問題として挙げてるのに資本主義に全責任を押し付けるだけ。
余りに単純思考で無責任過ぎて、唖然としてしまった。

キリスト教について。
日本ではキリスト教も、左右どちらも特段の批判はしていないように見える。宗教に否定的なはずの左翼インテリでも、宗教と科学が両立(むしろ神学論争などが大学の礎を築いた)してきたことを知っているから、分かりやすくキリスト教批判はしない。日本の学術界は欧米+学問教のようなもので、西欧の歴史をよく研究しているからだ。
けれど何度か記事に書いたように、フェミLINEの欧米かーは分かりやすく反キリスト教だった。「封建制と植民地主義の元になった」「プロテスタントも資本主義肯定した!」
感情的な反発が強すぎてびっくりした。

オタク文化について。
そこまで言って委員会で、「日本の誇るべき輸出産業」としてアニメや漫画が挙げられていた。日本の右翼は売れれば何でもいいのでオタク文化万歳らしい。確かに他に競争力のある産業は無くなってきてるけど、それでいいのか…。
一方で、左翼は左翼で「表現の自由」「規制反対」との信念からロリコンアニメも支持する人が多い。この点では欧米左翼も、日本のアニメはキリスト教的性道徳とかをぶっ壊してくれるからか、オタク文化万歳の空気があった(あくまでフェミLINEの人らはだけど…)。もう壊してくれればミソジニーでもロリコンでも何でもいいのか、と思う。
ここまでミソジニーやポルノ要素が強いアニメを成熟や自立を重視する欧米かーが本当に好んでるのかな、と思いググってみた。すると、アメリカの右翼主義者がオタク文化を痛烈に批判してる記事が出てきた。「日本文化の不気味な側面」とか「文化的マルクシズム」とか「西洋世界を汚染する退化的な汚物」とか。
反キリスト教で私に痛烈批判してきたアメリカの子も、日本のアニメが流行ってるのは一部のオタクにだと思う、ということは認めていた。
ちなみに「非実在児童におけるポルノイラスト」についても、欧米では規制の対象になってる国が多い。アメリカは特に小児性愛者に厳しい法律があるようだ。イギリスは日本を「児童ポルノの主要生産国」と批判したことがある。日本では「非実在児童」に対するポルノは規制対象としない、という判決が出ている。

まとめると、欧米左翼は反米で反資本主義で、反キリスト教で、親オタク文化な傾向にあるようだ。
あれ、なんか一周回って日本のネトウヨとやっぱり似てる気がする…。左翼たちは揚げ足取りばかりで無責任なのは欧米も同じだった。欧米かーはむしろ国のエリートがしっかりしてるから人権環境がいいんじゃないの?
逆に、日本のリベラル達は欧米の制度や法律がリベラル的なのを見て、欧米かーは左翼的で素晴らしいと見るが、それらを作っているのはエスタブリッシュメントのエリート達だ。どんなに日本かーから見て左翼的な制度でも、欧米左翼はその粗探しをして批判してるので、日本のリベラルとは全然話が噛み合わないのだ。
否応無しに世界は階層性になっていて、左翼度も国によって全然レベルが違う。客観的に見て既に上にいる層の国々が自分たちの「左翼」レベルを押し付けると、まだ救われていない当事者の声を無視することになって、逆にすごい暴力だと思う。
例えば、アメリカではホームレス支援等するNPOの力が強いが、日本では政府が補助金を出さないのでNPOの力が弱いため支援が薄く、ホームレス殺傷事件の数もアメリカとは比べ物にならない。
障害者殺傷事件や韓国・中国人差別もファシズム時代から精算されていない課題だ。にも関わらず、「ホームレスが嫌われるのはアメリカでも一緒」「彼らへの差別はどこにでもある」とか議論が乱暴過ぎる。
そんな深刻な問題は無視したまま、欧米の基準で一足飛ばしにLGBTの自由、エコ活動、て偽善的だと思う。LGBTへの支援はもちろん必要だと思うが、歴史への理解が無さすぎる。過去にファシズムや優生主義だった国が取り組むべき優先課題があるのではないだろうか。

やはり自分達の国のことは自分達にしか分からない、他人任せには出来ない。
自立しないと自由にはなれないのだと理解させられた苦い経験だった。

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