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いのちを描く。創り出す。

待ち焦がれていた、深堀隆介展の前日。
私は伊之助くん状態になっていました。
仕事をかき分けてもりもりと突き進んだ先に、不意にぽっかりと休日が降ってきたのです。
…んあ? 明日っから深堀隆介展じゃねーか!
そんなことぁ、ずいぶん前からわかってたことだぜ!
単に、考える時間がなかっただけだぜ!
フンスフンス! 行くぜ行くぜ!
こんだけ楽しみにさせてもらったんだ。先生に手土産の一つや二つ持ってったって、バチは当たらねーぜ?
私の中の伊之助くんが鼻息荒く言うので(笑)、菓子折りを用意してからファンレターを書きました。
猪みたいに突撃するのは私の属性の一つですが、仕事や生活に問題が出るので、極力表に出さないよう抑えてきました。
それがバリバリに賦活してノリノリなんですが、本当に大丈夫なんでしょうね。
自分の決断が正しいのか不安になると、私は易を立てます(スマホのアプリの簡易なやつ)。
コイントスで物事を決める栗花落カナヲちゃんを、他人事とは思えません。
以前は自分の食べたいものも決められず、いちいち易を立てて確認していました。
―願いは通じる。手厚い態度で人に臨む。吉。
いいじゃねーか! イケルイケる!
当日の朝美術館に突撃したところ、先生の講演会は満員御礼で締め切られておりました。
…ちーん。
グレながら館内をさまようこと数分。講演会を取り仕切るスタッフさんを発見!
お会いするのは諦め、先生に手渡してもらうことにしました。
所用とランチを済ませ、誘っていた友人と美術館に再訪です。
朝は興奮しすぎていて、ゆっくり作品を鑑賞できるテンションではなかったのです(笑)。
人垣が引くまで、かなり待たねばならなかったこともあります。
大盛況です。深堀隆介作品の人気はすごいなあ。
立体トリックアートでもある作品群は、絵画よりわかりやすいのも人気の理由でしょうか。
どなたが見てもきれいですしね。お子さんからお年寄りまで楽しめる展示です。
しっかし自分は何で、こんなに深堀隆介作品に惹かれるんだろう。
考えていたら、記憶がよみがえってきました。
子供の頃、親に連れて行ってもらったお鮨屋さんで、床がガラス張りになっているお店があったのです。
ただのガラス張りではなく、水槽になっていました。
自分が座っている座布団をめくると、暗い水の中を鮮やかな魚たちが泳ぎ回っていました。
鮨を食べるのもそっちのけで、水槽を覗きこんでいました。
そうか。
自分は、あれがもう一回見たかったのか。

初期の作品。撮影可能だなんて、太っ腹!
近年の作品。技術の向上を見てほしいと先生が。

納得しながら館内を周り、展示のひとつひとつを丁寧に鑑賞してゆきました。
水草に開いた穴や、金魚のフンまで緻密に描きこまれています。水の匂いまでしてきそうです。
金魚の胴体が、じつに重そうです。丸っこい胴体の中に内臓の詰まっている感じまで伝わってきます。
魚体のうねり、しなやかさまで伝わってきて、もはや生きているとしか思えません。
命そのものを創り出しているとしか、思えません。
先生は、このとんでもなく緻密な画を、何にも見ないで描くそうです。
そうだろうなぁ。いちいち実物や写真に当たっていたのでは、躍動感は死んでしまいます。
この実在感は、先生が世話をして見送ってきた、金魚たちの分まで命の重さが乗っているからだと思いました。
先生は、美しくて大きな魚体の子だけでなく、病気の子や弱っている子も含めてみんな描くそうです。
たぶんそれは、リアルさが増す、といった表面的な技術上の話ではなく。
「それが、ほんとうの命の姿だから。」という先生の姿勢であると感じました。
そのため、小さな金魚を描いた作品であっても、伝わるネルギーの質量が桁外れに重いです。
命は命、ですものね。小さな生き物の無心に生きている様。そして落命してしまった後も、幻にその姿を見つめ続けてる。
震災でお子さんを亡くされた方に向けて、遺品を用いた作品もあるそうです(映像のみで、展示はなし)。
現実の重さ、辛さに負けない質量をもつ深堀作品だからこそ、到達し得た境地だと感じました。
大騒ぎをしてこの日にそなえてきたわけですが、誘った友人も楽しんでくれたようで、よかったです。
半分くらいまで見たところで、突然館内放送が流れました。
先生自ら、急遽ガイドツアーを催してくださるらしい。
ひゃー!! 何という幸運!
裏話もたくさん伺えて、楽しさ十倍!
最後に質問コーナーまで設けてくださり、ひとつひとつの質問に誠実に答えてくださいました。
先生は作品の構想時間を長くとられ、いざ制作にかかると途轍もなく仕事が速いようです。
600kgの樹脂を磨きあげて創りあげた大作「方丈の夢」の制作期間は数か月とか。
「命を削って制作した」と仰るも道理、尋常な業ではありません。
かくなる上は、先生に健やかで幸せでお過ごしいただきたい!
そして、命そのものを閉じ込めたかのような素晴らしい作品を、長く作り続けて頂きたいと思いました。



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