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叢雲伝 〜起〜


曇りの日はなぜか時空の軸が
繋がる…

あの方の住むあの都へと…

 湖面より立ち登る霧。春の霞と相まって て、辺りには土の匂い、葦原の匂い、梅の香りが漂っている。無風。凪の水面に何か大きな魚が水面近くを泳ぐ。白鷺は歩みながら小魚をついばむ。

〜彼の地は
 もののふさきわう近江の海
 ますらお育む伊吹山
 彦根長浜竹生島
 浅き夢見し酔ひもせず
 都は大津、近江の大津
 逢う津、逢う坂、黄泉比良坂
 教えを何にしたためん…〜

 時は近江大津の宮の遷都の少しばかり前。西暦665年。湖畔の雪も溶け、辺りの野に春が訪れようとする。そのさまは真昼の土手につくしを摂る心地の如し、。。

 この頃近江には、大陸から渡ってきた人々が暮らす村があると聞く。近江の海は限りのない恵みをもたらしている。この国の中で調和を保つことさえできていれば、争いなど起こりようがないのだ。こんなにものどかな春の訪れである。

 異国の地での戦いに敗れ、ふるさとの国に還る人々の群れの中に私はいた。

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