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品品喫茶譚 第84回『京都 行ったことのない近くのカフェといつものカフェ』 

土曜日。って今日やんけ。昼に思い立って蕎麦屋へ行く。けいらんそばというあんかけに卵としょうがを入れたやつを食い、汁までごくごく飲んだ勢いでそのままだし巻き卵も注文して食べる。思えば昨日もゆで卵を食べた。卵ばかりだなあと思う。

帰り道、まあまあ家の近くにあるカフェに行ってみることにした。この街に住んでそこそこ長いことになるが、初めて入る店である。
このカフェ、珈琲も美味しかったが、とにかく音楽が良かった。本来であれば店主に「これは誰の曲ですか?」と尋ね、そこで偶然の出会いを感じられれば一番良いのだろうけども、実際はこそこそスマホを取り出すや、すぐさまシャザムなどかまし、なかなか結果が出ないとみるや、スマホを持った方の手を少し上にあげてみるほどの野暮で、ああなるほどこれはジョー・ストラマーのソロなのか、すごくかっこいいなあ、などとひとりごち、店を出るや、早速いつものカフェにしけこんで、サブスクで「じょーすとらまー」などと検索し、先程の曲が入っているアルバムを探し出して聴いている。めっちゃいいなあ。最高だなあ。しかし、これはこれで、めっちゃいいに違いないが、もしかしたら、店主にたずね
「これはストラマーですよ」
「ああクラッシュの!」
という会話をしつつ、後日、ふらっと入ったレコード屋でジョー・ストラマーのアルバムをたまたま見つけて、思わず手に取る、みたいなほうがなんだか人生的にはとても豊穣な気もして、サブスクのこの気軽さが自分の何かを確実に温めた一方、著しく大切な機会を損ねさせているかもしれず、なんかちょっと凹んだりもするが、いま良い音楽を聴きながら、いつものカフェで(しかも休日は大変賑わう店なのに、私が好きな角の隅っこの席が空いていた!)文庫本パラパラ、今日何杯目かの珈琲グビグビという、この時間はとてもありがたくもあるのだった。

文庫本といえば、私はいま綾辻行人にハマっているのである。氏は沢山の推理小説をものされているので、とりあえず私は館シリーズから始めてみた。氏の作品を手に取るきっかけになったのは、こないだブックオフにて、二束三文で売り払うことになってしまった金田一少年の事件簿「異人館村殺人事件」である。このエピソードに出てくるあるトリックが氏の『十角館の殺人』に出てくるトリックとうんたらかんたら、みたいな話を昔聞いたことがあるような気がし、読んでみたくなったのである。
実際、異人館村殺人事件に出てくるトリックは件の作品ではなく、島田荘司氏の『占星術殺人事件』に出てくるものだったが、この勘違いが私を綾辻行人作品へと導いてくれたのである。また、館シリーズには島田潔という、名前が島田荘司由来の探偵役も出てくることから、全く無関係ではないのだった。
『十角館の殺人』、『水車館の殺人』、『迷路館の殺人』と読み進め、いまは『人形館の殺人』を読んでいる。これもまた偶然であるけども、物語の舞台は京都。しかも北白川という私にとって結構馴染みのある辺りである。こうなると、もはやこの偶然を楽しみたくなるのが人情であり、すぐ何かに運命を感じる短絡に乗っかりたくなるのも当然です。というわけで、登場する街の近くのカフェであと200ページくらいで終わってしまう物語を読み進めている。
私は文章を書くときは日本語の歌、本を読むときは外国語の歌、と無意識に選んでいることが多く、その意味でも綾辻氏の小説にジョー・ストラマーはグッドチョイスだ。
北白川コーリング。物語は佳境に入った。

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