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『朔太郎さんのうた』

もし朔太郎さんのような詩人や上林暁などの私小説作家が、いま生きていてギターを手にしたとしたら、ロックシンガーではなく、フォークシンガーになっていたんじゃないかと思うことがあります。
これはもちろん僕の願望というか、そうあってくれたら嬉しいという希望的観測なのですが、彼らの作品を読んでいると、フォークとの親和性に感じ入ることが多いのもまた事実です。僕の思うフォークは彼らの詩や小説と同様、言語化するのが難しいような淡い感情や情景を掬い取ってくれると同時に、生活の中に埋もれた些細な機微を丁寧に拾っていくからです。
僕が詩人や私小説家の作品に曲をつけたり、モチーフにしたりするのは、そのような理由で勝手に彼らにシンパシーを感じているということが大きいです。
 
朔太郎さんの詩に曲をつけるようになったのは、「月に吠えるマガジン」というWEB媒体から取材を受けたのがきっかけです。
もう数年前のことになりますが、その頃、僕は全国各地の古書店や書店・文学館などでライブをすることが増えていました。作家の作品に曲をつけたり、小説をモチーフにした作品も作っていました。
高知は大方にある上林暁文学館(大方あかつき館)に招かれて、講演の合間にライブをしたり、夏葉社の島田潤一郎さんやピースの又吉直樹さんとイベントを御一緒する機会が多かったこともあって、皆さんから文学と親和性の強いフォークシンガーとして認知していただいていたのです。

「月に吠えるマガジン」の取材場所は銀座のバー・ルパンでした。太宰治や織田作之助、坂口安吾らが通ったことで有名なバーです。坂口安吾が愛飲していたというゴールデンフィズを飲みながら、文学のことや音楽のことなどを楽しくお話させていただきました。
このとき、ライターの肥沼和之さんと出会いました。肥沼さんは新宿ゴールデン街で「プチ文壇バー・月に吠える」というお店をされており、その店名からも伺えるように朔太郎さんをとても愛好されている方だったのです。
取材を受ける中で肥沼さんからぜひ朔太郎さんの詩にも曲を、と言っていただいたこともあり、その後、朔太郎さんの詩集を改めて読んでみることになりました。そこには魅力的な詩が沢山ありました。
早速、『陽春』、『夜景』、『女よ』という三つの詩に曲をつけて肥沼さんに送りました。後日、肥沼さんを通して、それらの曲が朔太郎さんの文学館である群馬の前橋文学館まで届き、そこから前橋文学館との縁が始まりました。それからは前橋文学館や臨江閣でのイベントや展示に何度も呼んでいただいています。いまでは最初の三曲に加えて『緑色の笛』、『記憶』など含めて全部で五曲の朔太郎さん楽曲があり、現在も新しいものに挑戦しているところです。

詩はどうしても難解でとっつきづらい部分があります。しかしこうして自分なりに音楽を用いて詩と並走してみることで、改めて朔太郎さんのことばの凄味、リズムの気持ちよさを体感することができました。詩というものに向き合う自分なりの方法を見つけたのだと思っています。


2022年11月27日(日)土屋文明記念文学館(群馬)

『萩原朔太郎大全2022 私の同郷の善き詩人』 
文士の作品に曲をつけて歌う「文学とフォーク」
14:00~14:40
無料 100名限定 
要事前申込 先着順

世田谷ピンポンズ

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