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品品喫茶譚第87回『京都 ゴゴ 野暮生活者が二人』

ゴゴに入ると、生憎テーブル席は埋まっていた。
少し遅れるという藤井を待つ間、カウンターで今日のトークライブで話すことを簡単にまとめてみる。トークはつかみだ。つかみがいつももたつくからダメなのだ。そして、話したいことは文章にするのではなく、箇条書きで。こういった当たり前のことをちゃんとやらないといけない。私は藤井青銅さんという放送作家のトーク本を事前に読んできたのである。今日のトークはきっと大丈夫だろう。
目の前でサイフォンがコポコポ鳴っている。後ろのテーブル席では女性三人組が旅行の相談に花を咲かせ、その横の席では青年がパソコンで何やら作業をしている。私の隣には二人組のカップルだろうか、店内を眺めながら、私と同様、ブレンドコーヒーがはいるのを静かに待っている。何となくノートにメモを取りながら外の方を見ていると、いつものカーキの上着に黒いチャイナシャツを着て、いつものトランクを持った藤井の姿が見えた。
二人、カウンター席でしばし珈琲をしばいていると、後ろのテーブル席が空いた。

「よかったら、後ろの席へどうぞ」

店主がすかさず声をかけてくれる。
私も藤井も店主とは顔見知りである。私はここで『喫茶ボンボン』という曲のMVを撮らせてもらったことがあるし、藤井とやっている『凡夜READING CLUB』のイベントの一環で珈琲豆を取り扱わせてもらったこともある。
何より二人が京都で茶をしばくときは大抵ここに来る。のだが、私は店主にうまく挨拶することができず、分かってくださっているのか、分かってくださっておらぬのか曖昧なまま、店を出る感じになってしまうことがたまにある(もちろんちゃんと挨拶することのほうが当然多い)。
で、今日は藤井もいるし、私はギターも持っているので、絶対に大丈夫だろうと思った。テーブル席に移る際に、あえてカウンター横のところにギターを置いておいても大丈夫かと聞いたりしてみる。

「そうそう。この間はギター倒しちゃいましたもんね!」

店主が私の全く知らないエピソードを出してきた。

「あ、そ、そうなんですね」

何が、そうなんですね、なのか、お前の話をしているのに他人事か、とおのれに問いかけてみるものの、全く身に覚えがない。

「あはははは」

店を出て、写真を撮る。思えば、この撮影も習慣になってきた気がする。二人ともゴゴが大好きである。

それからはまたいつものルートで百万遍の坂道をああだこうだ喋りながら登って、古書善行堂へ行った。
ちょうど藤井と店主の山本善行さんが対談した雑誌が置いてあることもあって、ここからしばし藤井雑誌署名タイムとなった。その間、私はゆっくり棚を見ることができた。この日は、昭森社版『木山捷平詩集』、荻原魚雷さん編集『新居格随筆集 散歩者の言葉』を購った。
店にいる間、少し雨がぱらついたようだったが、本日のライブ会場であるホホホ座に向かうころにはほとんど止んでいた。

ホホホ座に着き、物販などの会場準備を済ませて、近くの居酒屋「ゆき」に二人で向かう。ここは以前、ホホホ座の店主・山下さんに勧められて何かの打ち上げで行ったことがあり、そのときは家族写真が所狭しと貼られている奥の座敷で飲んだ。その後、再び店を訪れたときは入るやいなや、目の前に座っていた先客の女性に「兄さん、えげつない髪形しとるな」と言われた、いわくつきの飲み屋である。今日もまた奥の座敷に通される。家族写真と大きなテレビ。店内はおっさんで満席であった。ビールを少し飲み、唐揚げを食べ、レモンハイを飲み、ポテトを食べる。いままで気づかなかったが飯もうまい。ちなみにトイレは引戸ではなく押して入るようにできているので気を付けて。私がまごまごしていると、おっさんの一人が優しく教えてくれた。とにかくいい飲み屋である。

イベントのことはここに細かく書かないが、とにかく楽しかった。はっきり言って終わってほしくないとさえ思った。こんな夜がまたあればいいなと思う。
藤井と二人で村屋で打ち上げをする。

「時々、敵になるの、あれなんなんですか~」

と藤井に冗談交じりに言われる。
ずっと話を合わせてくれていたけれど、もしかしたら嫌な思いをさせていた時があったのかもしれない。トークの本を読んでいたのに全然学んでいない。でも私は特に親しい人間にはそういうふうになってしまうことが結構ある。親しさの裏返しで気安く言ってしまうのだ。大学時代、地元の親友と十円硬貨を立てる遊び(大概である)をしているときにそんな感じですっげー必要以上に言ってしまって、キレさせてしまったこともある。本当にどうしようもないくらい楽しかったので、私はそんな感じになってしまったときがあったようだ。イベント名が『野暮生活者のどめき』だったので、まったく野暮だねえ、で大抵のことを済まし、カラカラとビールを飲み、また唐揚げを食べて、終電前に別れた。いつも本当に楽しい夜をありがとう。

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