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品品喫茶譚 第91回『神戸 ファインの一個手前』

チェックイン開始時間の十分前にロビーについた。
こういった場合、タイミングによっては少し早めに部屋に入れることが結構あるので、とりあえずフロントに行ってみる。
「時間になったら名前をお呼びしますので、もうしばらくロビーでお待ち下さい」と言われる。
早まった。うわずった。前のめった。
思えばロビーには他にも数組の宿泊予定者が座っている。とりあえず椅子に座って、前に二台あるエレベーターを見つめる。
今日は神戸・本の栞さんで弐拾dB藤井と凡夜READING CLUBである。
しばしエレベーターの数字を凝視しながら、すでに前日よりこのホテルに投宿している彼を待つ。
ひたすらエレベーターの数字を凝視する。
扉が開く。
知らん人だ。
エレベーターが上昇する。下降する。
知らん人×2だ。
少しして私が凝視していた方ではないエレベーターから藤井が降りてきた。
同時にチェックインの時間もきた。
続々とエントランスから本日の宿泊客が入ってくる。
瞬く間にフロント前に列ができる。
しかし私には声がかからない。
バタバタしている。
フロントはなぜか異様にバタバタしている。
列を捌き出す一方、最初に名前を呼ぶと言われた方々の中でも古参メンバーがスタッフから直々に端っこのカウンターに呼び出される。しかしバタバタしていて、心許ない時間が続く。一応次に私も案内されたものの、一向に手続きできる気配がないため、フワっとしたまま椅子に戻る。それにしてもギターケース、トランク、ショルダーバッグ。なんでこんなに荷物が多いのか、まるで馬鹿である。
しばらくすると、男性スタッフがやってきて
「申し訳ありません。こちらで手続きさせていただきます」
と、すごく丁寧なかんじで、おっしゃられた。
私が怒っている、みたいな誤情報がバックヤードに流れているのではないかと少し不安になる。私は疲れているだけで、決して不機嫌ではない。確かに昔、黙っていただけで「怒ってるよね。なんか、ごめんね」などと、気を遣われてしまったことのある私だ。きっと責任はこちらにあるに違いない。本来は前払いであるところの宿泊費を「後払いで大丈夫です!」と努めて誠実なかんじで言われ、出した財布をすぐにしまった。
ホテルはきれいだし、立地も良く、もし今後神戸に泊まる機会があれば、また泊まりたい。

一度部屋に入ったあと、二人で宿を出た。
久しぶりの神戸の街は賑わっていた。
まずは本の栞に挨拶にいき、ギターケース、トランク、カバンなどを置かせてもらう。しゅっとした店にガヤガヤやってきて沢山の荷物を置いていく野暮生活者。
荷物が多い人間は馬鹿に見える、というのは私が最近聞いた至言であり、全くもって納得のことばだ。
アーケードに戻り、藤井とふたり近くの古本屋を結構なタイムを費やして見、夜のイベントのために古本を数冊ずつ購う。
藤井行きつけの「はた珈琲」は残念ながらお休み。その後、訪れたポエムは満席。サントスも並んでいて、エビアンは休み。そんな行き当たりばったり、喫茶店難民、疲労困憊の水分足らずたちの目の前に現れたのが、喫茶館ファインの文字だった。 
後半へ〜、続く。

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