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品品喫茶譚 第81回『東京 新宿 ピース 「みそか」のこと』

ここ数年、年納めのライブを東京の高円寺でやらせてもらっている。
一年の締めくくり、来年への布石、とにかく色々なことを考える大切な時間である。
ライブと同時に毎年恒例になりつつあるのがピース納め。年末には新宿西口の喫茶店・ピースへ行く。ということで、今年もしっかりと納めてきた。
28日ともなると、街はすっかり年末の慌しさで、ポツポツ帰省する人も増えるために、結構人はまばら、独特の忙しなさがある。私はこの空気感がかなり好きで、年末の東京を訪れるのを楽しみにしている。のだが、今回なんとなくあまりこの空気感を感じられなかった。それは困難な時代のせいもあるのか、なんかとっても年末感が希薄であった。新宿駅西口は大規模な改修工事が行われていて、それもまた普段の見知った風景とそれに対する自分の感情を遠ざけた要因かもしれない。
ピースに到着すると、ちょうど空席が一席だけという繁盛ぶり。一番入口に近い窓際の席に案内される。私が着席したすぐあとから少しずつ列ができ始め、ガラス一枚通して人々が並んでいるのがすぐそこに見える。タッチの差だったとはいえ、忙しい時間帯に一人客である私がテーブルを使うのはなんだか申し訳なくもあり、いつも通りピラフとホット珈琲を注文し、黙々と食い始める。
いつものピラフに安心する。
ピースは藤子・F・不二雄先生がよくいらっしゃっていた喫茶店である。私は少し前に先生の姿を想像しながら、ピースのことを歌にしたが、その中の歌詞で、のべつまくなし通り過ぎる人の群れ、というのがある。それはまさにいまの席から見える外の風景を書いたのである。
高速バス乗り場に向かう人、新宿駅のほうへ小走りする人、家路を急ぐ人、店の前では老人が店員さんに身振り手振りをしながら道を聞いている。日暮れた街を吹く風が日中よりも厳しさを増している。見紛うことのない年末だ。ほっとした。

翌日の夜は高円寺コクテイル書房で『みそか』。
今年は久しぶりに小上がりをステージにしていただいて歌った。
馬鹿真面目に今年のことを振り返っていると、いくらでも喋りたいことが出てきてしまう。歌いたい歌もわんさかある。歌うたびに歌のことが、分かったり、分からなくなったりする。でも歌はときに自分の感情なんて軽やかに追い越していくから頼もしくもある。
自分の歌は自分にしか作れない。そこには正解も間違いもないから、難しくて楽しい。
今年も楽しくやらせていただいた。
歌を聴いてくれて、本当にありがとう。
終了後、これも毎年恒例になりつつあるが、店主の狩野さんと少しお話する。忌憚なく話してくれる人こそ自分には必要で、そんな人が何人かいることがありがたく心強くもある。来年も楽しいことを沢山したい。
チューダーですっかり温まっている。店を出て、ペリカン時代へ行く。いつも温かく迎えてくれる店があるというだけで寂しくない。
今年も自分なりに頑張った。酒場で老けたと言われて、内心ムッとした。全くもってフォーエバーヤングである。えへらへら。
※文中の今年は2023年、来年は2024年。

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