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介護小説「こかげ」全22話まとめ

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介護の仕事に触れながら想いを深め合ったふたりの、時を超えたラブストーリーです。
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記事一覧

【連載小説】「こかげ」最終回(全22回)

 夜勤って久しぶりなんだよね、と乙村さんがぼやいた。 「そっかあ」  言われてみればそうだ…

阿部敦子
3年前
7

【連載小説】「こかげ」第21回(全22回)

「どうしたの急に帰ってきて。珍しいじゃないの」  翌日、きょとんとしている母親を横目に、…

阿部敦子
3年前
7

【連載小説】「こかげ」第20回(全22回)

 入居から数日が経ち、彼は食事を食堂でとるようになった。 「あなたは素晴らしいね!」  ひ…

阿部敦子
3年前
4

【連載小説】「こかげ」第19回(全22回)

 翌日は一般浴の日だった。浴室の準備をしながら乙村さんが言った。 「田中さん。三条さんを…

阿部敦子
3年前
4

【連載小説】「こかげ」第18回(全22回)

「あ……」  彼は眠っていた。唇を閉じ、静かに呼吸をしている。 「直……」  囁いてみる。…

阿部敦子
3年前
3

【連載小説】「こかげ」第17回(全22回)

 56才男性。要介護1。脳梗塞後遺症で軽度の左片麻痺あり。老人保健施設でリハビリ後、現在は…

阿部敦子
3年前
8

【連載小説】「こかげ」第16回(全22回)

「早紀さん、今日なんだか顔が腫れてません?」  翌日、夜勤明けの夏実さんが、これから昼休憩に入る私の顔をまじまじと見た。 「そうかも……」  昨日、どれほど泣いただろう。泣いても泣いても、ワイン樽の栓をひねったように涙が止まらなかった。電池が切れかけた時計の針みたいに、ただひたすら小刻みに肩を揺らして嗚咽した。 「主任が結婚するかもしれないって、もうすごいショック」  夏実さんの話によると、夕べは副施設長が遅くまで残業していたという。彼女が事務所にコピーをとりに行こうとした

【連載小説】「こかげ」第15回(全22回)

 本当にごめん、と直は繰り返した。体調が悪いわけではないという。 「仕方ないよ」  本当に…

阿部敦子
3年前
4

【連載小説】「こかげ」第14回(全22回)

 月が変わると、私の次の新人が入ってきた。直は私の指導から離れ、新人の育成に時間を割くよ…

阿部敦子
3年前
5

【連載小説】「こかげ」第13回(全22回)

「直……」 「うん」 「そんなことを言ってくれるのは……私が目撃者だから?」 「え?」 「私、…

阿部敦子
3年前
3

【連載小説】「こかげ」第12回(全22回)

「はっきり言ってくれていいんだよ」  がつん、と中ジョッキを叩きつけるように直が置くと、…

阿部敦子
3年前
2

【連載小説】「こかげ」第11回(全22回)

          9  就職してもうすぐ1ヶ月。下駄箱で靴を履き替えながら、早紀さん、と…

阿部敦子
3年前
4

【連載小説】「こかげ」第10回(全22回)

          8  土曜日が来た。  出勤すると私は何をするよりも先に通用口から階段…

阿部敦子
3年前
4

【連載小説】「こかげ」第9回(全22回)

「あっ、今日からの田中さん。一緒に食べていいですか」  従食のお膳を両手に持って近づいてきたのは同世代に見える女性だった。どうぞどうぞ、と答える。 「私も田中っていうんです。だから下の名前で呼んでいいですか」  座りながら言った相手がはにかんだ。 「あっ。それ、主任にも聞きました。だから早速、主任には下の名前で呼ばれてます」 「そうだったんですね。早紀さんでしたよね。私のことも良かったら下の名前で呼んでください。夏実っていいます」 「夏実さん」  口に出してみると、不思議な