【連載小説】「こかげ」第16回(全22回)
「早紀さん、今日なんだか顔が腫れてません?」
翌日、夜勤明けの夏実さんが、これから昼休憩に入る私の顔をまじまじと見た。
「そうかも……」
昨日、どれほど泣いただろう。泣いても泣いても、ワイン樽の栓をひねったように涙が止まらなかった。電池が切れかけた時計の針みたいに、ただひたすら小刻みに肩を揺らして嗚咽した。
「主任が結婚するかもしれないって、もうすごいショック」
夏実さんの話によると、夕べは副施設長が遅くまで残業していたという。彼女が事務所にコピーをとりに行こうとした